A Written Oath

湘南藤沢の開業税理士・マンション管理士・社会人大学生のブログです

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社会人大学院関連

権利能力なき社団とマンション管理組合について

先月の社会人大学院のゼミ合宿で、修士論文のテーマを、マンション管理組合を主体しつつも、その範囲を広げ「人格のない社団等」に決めました。

社会人大学院ゼミ夏合宿

以前にも記事にした通り、マンション管理組合に対する課税は、管理組合が租税法上の「人格のない社団等」に該当するものとして行われています。

分譲マンションの管理組合と法人税について

実務上は、このように課税されていることは百も承知ですが、それを「そうですか」と受け入れてしまっては、論文が書けません(笑)

課題や問題点などを検討しつつ、小さくとも有益な提案ができることが必要です。

そもそも論として、法人税が法人ではない人格のない社団等に対して課税することの是非なども論点としてはあるのですが、今回はもう少し具体的に「マンション管理組合」という法律上の組織に関して、アカデミックな感じで検討してみたいと思います。

 

人格のない社団等

「人格のない社団等」は、法人税法第2条1項8号で、次のように規定されています。

法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものをいう。

 

法人ではないことに関しては明確に区別できますが、「社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるもの」という部分には、曖昧さが残ります。

加えて、民法には社団や財団だけではなく、「組合」という団体もあり、加えて、この「人格のない社団等」は、法人税法など租税法上の定義であって、民法上の規定ではありません。

 

次に、民法では、法人ではない社団に関しては、「権利能力なき社団」と呼ばれています。

ただ、民法自体にこのような団体に対する明文化された規定がありません(民事訴訟法にはある)

そのため、過去の裁判事例(判例)に基づいて、そのような団体に該当するかどうかを判断しています。

代表的な判例は、『杉並マーケット事件(最判昭和39年10月15日、民集18巻8号1671頁)』と呼ばれる最高裁判決です。

この裁判では、法人ではない財産の帰属主体となる団体は、次の要件を満たす必要があると判示しています。

①団体としての組織をそなえ、そこには②多数決の原則が行なわれ③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、しかして④その組織によつて代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない。

 

最高裁判所は、このような団体であれば、この団体のメンバー個々の財産と、団体の財産とを区分して、団体に帰属する財産(この裁判では土地賃貸借契約による賃借権の取得)を持つことができるとしました。

そして、租税法で定義がないものは、「借用概念」と呼ばれる、他の法律からその定義を借りてくる方法で解釈しており、民法上の「権利能力なき社団」が租税法上の「人格のない社団等」であると解釈することについては定説となっており、争いはないようです。

なお、借用概念が用いられる理由としては、租税法上の固有の定義(固有概念)があるものを除き、他の法律における定義と同じ意味(意義)であると解釈しないと、法的安定性が保たれないと考えられている(統一説:通説)からです。

当然のことながら、課税庁の法令解釈である基本通達も、「人格のない社団等」に対する判断に関して、この解釈に基づいています。

 

管理組合

分譲マンションの管理組合という組織は、「建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」)」の第3条に定める「区分所有者の団体」のことです。

この区分所有法では、「管理組合」という用語は、規定されていません。

しかし、法人化した場合には、「管理組合法人」という定義が区分所有法にあることから、法人化されていない「区分所有者の団体」のことを、一般に「管理組合」と呼んでいるのです。

厳密にいうと、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」では、「管理組合」が定義されていますが、この法律の定義では管理組合法人も含めてしまっているため、法人のではない管理組合を区別して扱うことができませんので、ここでは除外して考えています。

 

管理組合は「権利能力なき社団」か?

この該当性についても、裁判で争われています。

具体例としては、昭和57年10月22日の大阪地裁判決です。

この裁判では、分譲事業者(被告)が竣工後の未販売住戸の管理費等を支払わなかったため、管理組合(原告)と裁判になりました。

そこで、分譲事業者は、区分所有法は販売完了後に適用されるべき法律であるなどとして、販売が完了するまでは分譲事業者に対して、区分所有法を適用すべきではないと主張しました。

結論、大阪地裁は、この管理組合は前述の4つの要件を満たしており、民法上の「権利能力なき社団」に該当するとして、管理組合の主張が認められています。

この他の裁判・採決事例においても、租税回避のために管理組合を利用しようとした特殊事例などを除けば、管理組合は「権利能力なき社団」に該当するとされています。

 

まとめ

ここまでの検討からすると、管理組合が、民法上の「権利能力なき社団」であることは間違いなさそうです。

その意味において、法人ではない財産の帰属主体として、マンション管理組合が「人格のない社団等」とされ、法人税課税されることに関しては問題がないように思われます。

しかし、私はそこには疑問を持っています。

なぜなら、財産の帰属という別の視点から見ると、他の考え方をする余地があると考えているからです。

長くなってしまいましたので、その部分については、次回以降の記事で書きたいと思います。