A Written Oath

湘南藤沢の開業税理士・マンション管理士・社会人大学生のブログです

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マンション管理

マンション管理組合と地震保険について

昨日(2016.9.8)の記事では、熊本地震の現地レポートとともに、地震保険の加入について発表者よりお勧めがあったことを書きました。

マンションコミュニティ研究会のミニ勉強会に行ってきました

私も地震保険は加入していた方が、マンションを復旧させる大きな手助けになることに関しては、同意できるものの、単純に全てのマンションが地震保険に加入すべきとまでは考えていません。

今日は、法制度としての地震保険の制度概要について書きたいと思います。

 

地震保険

この判断を行うためには、地震保険制度に対する正しい理解が必要です。

まず、地震保険の販売は、民間の保険会社が取り扱ってはいますが、営利事業ではありません。

財務省のホームページで、制度概要が説明されていますが、地震保険はその保険金のほとんどを日本政府が再保険をかけることによって成り立っています。

そのため、地震保険の保険料には、保険会社の経費は含められているものの、利益は含まれていません。

しかし、それでは保険会社にメリットがありません。

そこで、制度として、地震保険単独では保険をかけることができず、必ず一般の火災保険商品とセットでなければならないことになっています。

次に、地震保険の大きな特徴は、火災保険金額の30%〜50%しか掛けられず、上限(建物5,000万円、家財1,000万円)も決まっていることにあります。

すなわち、建物が倒壊してしまったとしても、本体契約となる火災保険金額の最大でも半額、場合によってはあらかじめ決められている上限額(加えて、時価他の制限もあります)までしか保険金が出ません。

 

損害認定

地震保険に関しては、その被害に対する認定がよく話題となります。

これは、被害の認定により、降りる保険金が全く異なるからです。

現在、地震保険の被害認定は、全損・半損・一部損の3段階です。

全損であれば、掛けた保険金額(そもそも火災保険金額の最大50%)の100%が出ますが、半損であれば50%、一部損だと5%しかでません。

ここでよくトラブルとなっています。

最大の理由は、一部損と半損で降りる保険金が10倍違うからです。

ちなみに、この判定の基準は、「時価又は延床面積の20%の損害」です。

今回、判定の詳細は割愛しますが、20%以上の損害が認められれば、半損として50%の保険金がもらえる反面、20%未満の被害では、5%と10分の1しか貰えません。

この被害認定に関しては、逆の捉え方をすると、補修工事するほどの被害でなかったとしても地震被害が認定されると、保険金額の5%が貰えるともいえます。

東日本大震災後、この制度を最大限利用して、一部損を保険会社に認めさせ、保険金が降りるように調査・申請するコンサルが流行りました。

管理組合が、成功報酬として結構なフィーを支払っているケースを知っています。

管理会社から斡旋されるケースなどもあり、管理組合からすれば、もらえるものは貰っておきたかったのでしょうね。

実際、私の知るほとんどケースで、保険金を貰っても、管理費・修繕積立金としてプールし、補修工事は行われてはいませんでした。

この原因は、創設当時の地震保険が、通常の財産に対する損害を補填するための財物保険ではなく、「被災者の生活の安定に寄与するための資金を支給する費用保険としての性格が色濃いもの」であったことによるものです。

過去の制度改正により、その財物保険としての性格も強くなってきてはいますが、創設当時の費用保険(臨時費用保険や見舞金費用保険など)の性格はいまなお残っており、そのため、迅速な保険金支払いを目指して、このような簡易な被害認定手法を取っているとされています。

なお、東日本大震災では、1兆2000億円以上の保険金が支払われるとともに、制度見直しに関する審議が行われ、報告書がまとめられています。

この検討の結果などにより、来年1月から認定区分が4つへと変更されることが、すでに決まっています。

 

マンション固有の事情

ここまでは、戸建てとも共通の地震保険制度全体の解説でしたが、ここからは分譲マンション固有の話です。

分譲マンションは、戸建てと異なり、専有部分と共用部分に分かれています。

そのため、火災保険や地震保険もそれぞれ個別に保険をかける形となります(※)

ここで問題になるのは、管理組合が、共用部分に地震保険を掛けたとしても、そもそも50%しか掛けられない上に、さらに、共用部分だけしか保険がかかっていないということです。

すなわち、全損の認定を受けても、専有部分に地震保険がかかっていないと、半分のさらに半分程度しか保険金が降りません。

また、被害認定は主要構造部分に対して被害ができたことによって認定されます。

すると、主要構造に以外、例えば、壁、棟を繋ぐためのエキスパンションジョイント、外構や付属施設などが被災したとしても、それだけでは被害認定が受けられないケースがあります。

このほか、一部損や半損程度の被害で、管理組合が機能しているケースはまだ良いのですが、今回の熊本地震や東日本大震災クラスの被害を受けると、管理組合の機能が停止することは、よく聴く話です。

このため、ネットで有名なちきりんさんは、マンション管理組合が地震保険をかけることは、ほとんど意味がないとおっしゃられています。

この記事が書かれた時点からは、標準管理規約の改正などもあり、環境は少し変わったように思われますが、一面の真実でもあります。

マンション管理に関わる方々は、当然、マンションには継続して欲しいので、地震保険を掛けるべき論が多いのですが、この部分に関しては、管理組合が個別の事情を斟酌して判断すべきと、私は考えています。

ただ、保険料が高額であるからという一点を大きく捉え、保険付保していない場合には、しっかりとリスクとコストを比較考量した結果として、判断して欲しいと思っています。

 

まとめ

今回は、地震保険制度の概要について解説するだけで、結構な分量になってしまいました。

近日、マンションの管理組合が地震保険を付保する上で、留意すべきことを書きたいと思います。

なお、私は、過去に管理会社で保険を取り扱っていましたが、現在は保険代理店を営んでいません。

したがって、保険業法の規制により、保険契約の勧誘行為となるような具体的な保険商品の説明、保険金が支払われるケース・支払われないケースなどについては、個別にご質問をいただいても回答できませんので、ご了承願います。

 

 

※厳密にいうと、共用部分については管理組合が一括して保険付保する方法と、各区分所有者が専有部分と持分割合に応じた共用部分に個別に保険付保する方法の2種類の契約方法があるのですが、一般的には、共用部分は管理組合が一括して保険付保していることから、ここでは前者であることを前提にしています。