A Written Oath

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消費税税理士試験

納税義務の免除を受けないこととなつた場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整

今日は、3つある「控除の調整」の最後の規定で、「納税義務の免除を受けないこととなった場合等棚卸資産に係る消費税額の調整」について、まとめてみたいと思います。

 

消費税法は、納税義務者である「課税事業者」でなければ、「預かった消費税」から控除することができる「支払った消費税」に関する規定を適用することができません。

払う義務のない人には、控除できる規定を適用する必要はないわけです。

 

しかし、消費税は、「小規模事業者に係る納税義務の免除」や「課税事業者の選択」の規定等により、課税事業者となったり、免税事業者となったりと、その適用があったり、なかったりということが有りえます。

支払った年度で完結する通常の費用は問題ないのですが、「棚卸資産」は、その年度単年では完結せず、翌年度以降に在庫として持ち越される場合がありえます。

この規定は、この翌年度以降に持ち越される「棚卸資産」に係る消費税額をどのように処理するのかについて、定めています。

 

※下記の参照条文については、分かりやすさを優先し、条文番号の内容への置き換え、一部省略等を行っています。

 

納税義務の免除を受けないこととなつた場合

第36条1項に次の通り規定されています。

消費税を納める義務が免除される事業者が、同項の規定の適用を受けないこととなつた場合において、その受けないこととなつた課税期間の初日(「相続があった場合」、「吸収合併があった場合」又は「吸収分割があった場合」の規定により「小規模事業者に係る納税義務の免除」の規定の適用を受けないこととなつた場合には、その受けないこととなつた日)の前日において消費税を納める義務が免除されていた期間中に国内において譲り受けた課税仕入れに係る棚卸資産又は当該期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物で棚卸資産に該当するもの(これらの棚卸資産を原材料として製作され、又は建設された棚卸資産を含む。)を有しているときは、当該課税仕入れに係る棚卸資産又は当該課税貨物に係る消費税額(当該棚卸資産又は当該課税貨物の取得に要した費用の額として政令で定める金額に百八分の六・三を乗じて算出した金額をいう。第三項及び第五項において同じ。)をその受けないこととなつた課税期間の仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額とみなす。

 

一文でこれだけ長いと、全く読む気がしませんね。

受験しなければ、絶対に読まなかったと思います。

この規定では、免税事業者が課税事業者となった場合に、免税事業者として購入し、課税事業者となった時点で保有している「棚卸資産に係る消費税額」を「仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額」とみなすこととしています。

細かいことを省けば、課税事業者となった時点で持っていた「棚卸資産」に係る消費税額は、「支払った消費税額」として、「預かった消費税額」から差し引けますよと規定しています。

 

 

書類を保存しない場合

第36条2項に次の通り規定されています。

「消費税の免除を受けないこととなった場合』の規定は、事業者が政令で定めるところにより同項に規定する棚卸資産又は課税貨物の明細を記録した書類を保存しない場合には、当該保存のない棚卸資産又は課税貨物については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。

 

「書類を保存しない場合」の規定となっていますが、要は書類を保存しないと適用しないという規定ですね。

この規定にも、以前『帳簿及び請求書等の保存』で説明した「宥恕規定」である「災害その他やむを得ない事情」があった場合が定められています。

 

 

事業を承継した場合

第36条3項及び4項に次の通り規定されています。

 個人事業者(消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が相続により被相続人(消費税を納める義務が免除される事業者に限る。)の事業を承継した場合又は法人(消費税を納める義務が免除される法人を除く。)が合併により被合併法人(消費税を納める義務が免除される法人に限る。)の事業を承継した場合若しくは分割により分割法人(消費税を納める義務が免除される法人に限る。)の事業を承継した場合において、当該被相続人又は被合併法人若しくは分割法人が消費税を納める義務が免除されていた期間中に国内において譲り受けた課税仕入れに係る棚卸資産又は当該期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物で棚卸資産に該当するものを引き継いだときは、当該課税仕入れに係る棚卸資産又は当該課税貨物に係る消費税額を当該引継ぎを受けた個人事業者又は法人の当該相続又は合併若しくは分割があつた日の属する課税期間の仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額とみなす。

 「書類を保存をしない場合」の規定は、前項の規定の適用を受ける個人事業者又は法人について準用する。

 

こちらの規定では、「課税事業者」が「免税事業者から相続、合併、分割等により、事業を承継した場合」について、「棚卸資産に係る消費税額」を「仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額」とみなすこととしています。

第4項では、第2項の「書類を保存しない場合」を準用すると規定されていますので、同様に「書類を保存しないと適用しない」ことになっています。

 

 

消費税を納める義務が免除されることとなった場合

第36条5項に次の通り規定されています。

事業者が、消費税を納める義務が免除されることとなつた場合において、「小規模事業者に係る納税義務の免除」の適用を受けることとなつた課税期間の初日の前日において当該前日の属する課税期間中に国内において譲り受けた課税仕入れに係る棚卸資産又は当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物で棚卸資産に該当するものを有しているときは、当該課税仕入れに係る棚卸資産又は当該課税貨物に係る消費税額は、「仕入れに係る消費税額の控除(「課税売上高が5億円を超える場合等」の規定の適用がある場合には、同項の規定を含む。)」の規定の適用については、当該課税期間の仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額に含まれないものとする。

 

最後に、逆パターンの規定ですね。

暗記の際には、文頭の「事業者が、消費税を納める義務が免除されることとなった場合において〜」と文末「〜含まれないものとする。」という部分に気をつければ、内容はほぼ同じです。

ただ一点、下線太字とした部分は、「課税期間の初日の前日(=当課税期間)」にて「当該前日(=当課税期間の末日)の属する課税期間(=「当課税期間」)中」は第1項及び第3項の規定と異なっており、当課税期間で仕入れた棚卸資産しか、この規定の対象とならないと規定されています。

 

具体的には、第1項と第3項の規定では、「消費税を納める義務が免除されていた期間中」に仕入れた棚卸資産であれば、前期や前々期のものであっても、全て対象となります。

しかし、第5項の規定では、翌期免税事業者となる場合には、当期中に仕入れた棚卸資産のみ対象となり、前期、前々期に仕入れた棚卸資産については対象となりませんので、注意が必要です。

 

 

まとめ

「控除の特例」の一種である「控除の調整」に関する規定は、簡単にではありますが一通りの解説が終わりました。

条文に書かれているわけではありませんが、「控除の特例」の影響が基本的に単年度の計算にしか影響しないことに対し、「控除の調整」は、複数年度の計算に影響を与えるところに違いがあります。

 

これらの規定は、基本論点からすれば、重要度は落ちます。

しかし、応用論点というほどではないため、勉強のメリハリの付けどころが難しいところです。

あえて言えば、このレベルまでは十分な時間を捻出して、理解し、反復練習に取り組めないと、直前期で合格レベルまで持っていくのは難しいかもしれません。

(繁忙期など季節的な変動による影響がある場合は致し方ないと思いますが、その時はリカバリー計画をしっかりと立てられることをオススメします。)