『マンションの資産価値を決める「究極の計算」』を読みました

先日の3月度のマンションコミュニティ研究会後の懇親会で、管理会社である株式会社長友の川田耕治社長にお会いできました。

その際、川田社長から、今回書評を書かせていただいたご著書をいただきました。

今まで公的機関、コンサルタントや学者サイドの著書はかなり読んできましたが、管理会社の社長自らが本を書くということは、ほとんどなかったように思います。

そして、川田社長は、金融機関ご出身で、その後、企業再建に関わるコンサルタントに転身され、現在は管理会社社長というご経歴です。

どのような視点からのマンションについて書かれているのか、とても興味深く思いつつ、読ませていただきました。

 

丁寧な論証の積み上げ

昨今は、体験系の本が多く、また読みやすさを重視して、結論に向かってシンプルで直線的な本が多いと感じていましたが、この本では、とても丁寧な論証が積み重ねられており、論文的な雰囲気を感じました。

そもそも日本におけるマンションについては、研究がある程度成熟した分野に比べると、建築物としてまだ歴史も浅く、明確に言い切れることが少ないと感じています。

その部分が影響してか、結論に対する妥当性を補強するため、統計資料や公的機関の調査なども多数引用し、数的な面でもとてもしっかりとした裏付けをとられています。

そして、日本国内における事例だけではなく、海外におけるマンション事情もかなり網羅的に事例紹介されています。

 

建築物としてのマンションに関してはその通り

マンションの価値を考える上で、長寿命化、メンテナンスコストを考えた設計などの有用性を、具体的な数字に落とし込み、またマンションのグレード感に合わせた管理メニューの提案まで行われています。

この辺りの結論には、ほとんど異論がありません。

私がマンション管理業界に入った当初、営繕担当者として最初に持った疑問、「なぜこのような建築物ができるのだろう?」に対する模範解答の一つとしては、このような結論になります。

そのため、共感を覚える部分が数多くありました。

当時、営繕担当者の新人だった私が、上司に対して「ランニングコストを考えるなら全ての建築物を横長長方形にカーテーンウォール形式で建てれば良いのに」と話したことを思い出しました。

もう20年近くも前なので上司からの回答を正確には思い出せないのですが、「そんな建物ばかり作っても売れるわけない」的な回答をいただいたはずです(苦笑)

 

強調すべきところ

そもそも試案的ご提案であり、この「究極の計算」の結論を導くために、これだけのご著書を書かれたことは、とても素晴らしいと感じました。

もちろん、意見が相違する部分も少なからずあります。

しかし、今後のマンション価値を考える上で、川田社長が提案された計算の基準は、非常に有効です。

ただ、一つだけ気になったのは、計算方法よりも、建物の耐用年数と区分所有者の高齢化とのズレが、あまり論点となっていなかったところです。

単なる視点の違いに過ぎないかもしれませんが、マンションにおいては、私は、こちらの方がより重要で深刻な問題だと思っています。

全く書かれていないわけではありませんが、マンションにおいて管理費、修繕積立金が問題になるのは、負担している区分所有者が高齢化してしまうことにより、その負担に耐えられなくなることが主因だと考えるからです。

一応、マンションに資産価値があり、売買が成立すれば、この問題は起こりません。

また、建築物としての建物価値が維持されているだけでは、立地からくる不動産価値の低下を回避することはできません。

その面に関しては、川田社長は、マンションのグレード感に合わせた管理メニュー提案しています。

その立地などにおける不動産価値から考えた許容ランニングコストから逆算し、維持可能なコスト以上の費用がかかるようであれば、清算を検討するという結論は、管理会社フロントとしての実感通りです。

 

まとめ

全てのマンションを救うような話ではなく、理想を掲げつつも、とても現実的な提案をされている本だと感じました。

管理面から見れば、このアプローチになることはよくわかります。

そして、この手法は早く手を打てば、打つほど、有効になる考えであることから、築年が浅い管理組合ほど参考になる本だと思います。