フロント担当者から見た業務処理の要領とポイントについて(契約書記載の業務:後編)
中編(2016.1.2)に続き、『マンション標準管理委託契約書』に記載されている第16条以降の業務について、投稿したいと思います。
第16条 守秘義務
『マンション管理の適正化の推進に関する法律』の第80条及び第87条の規定を受けて、「秘密保持義務」の定めがあり、また「個人情報」の適正な取り扱いについて規定されていますが、この規定に関わらず、当然に適正な取り扱いが求められるものであることから、特に議論の余地はないと考えます。
なお、個人情報の適正な取り扱いに関しては、『マンション管理業における個人情報保護ガイドライン』、『国土交通省所管分野における個人情報保護ガイドライン』等の規程があります。
ここで問題になるのは、個人情報よりも「プライバシー」と「個人情報」を盾にした情報の非開示です。
厳密に言えば、多くの管理組合は、単独で5,000人以上の個人情報と個人情報データベース等を所持している事業者には当たりませんので、「個人情報保護法」の適用範囲外です。
また、「私生活上の事柄をみだりに公開されない法的な保護と権利」される「プライバシーの権利」については、個人情報保護法では、「積極的プライバシー権」と呼ばれる個人情報の訂正・削除を求めることができる権利しか規定されていません。
一般的に「プライバシー」に対してイメージする「私生活上の事柄をみだりに公開されない権利」というものは、法律としては規定されていないのです。
そのため、過去の判例などから類推することしかできず、また時代の流れとともにその定義も変わっています。
明確な判断基準がない以上、管理会社はこの対応に関して非常に保守的に対応し、一般的に「開示しない」姿勢となります。
当然、開示されたくないような情報をどんどん出してしまう管理会社は信頼できませんので、普段はこれで問題ないのですが、管理会社は、この「非開示」を利用して、「組合員名簿」等をひた隠しにし、管理会社変更(リプレイス)を行われないように動きがちです。
しかし、「組合員名簿」は総会議事録と同じく、『マンション標準管理規約(単棟型)』第64条に規定があり、「正当理由」があるような場合を除いて、閲覧させなければならないことが、はっきりしています。
従って、「開示できるもの」と「開示できないもの」、またその謄写権などを明確に区別して、対応することが必要です。
第17条 免責事項
天災などを事由とする損害は免責とされていますが、あくまで「善管注意義務」を果たした上で、なお対応できない事態についてのみです。
明確な基準とはなっていませんが、過去の判例などを確認し、免責にはどのような要件が必要とされるかを知っておくことは、「管理組合」及び「管理会社」相互に必要だと考えています。
フロント担当者は、『管理業務主任者』の資格取得や法定講習による研修を受けるだけでも、相当なレベルアップできますので、まずはその部分からスタートしてはいかがでしょうか?
逆に、管理組合には専門家がいないため、手前味噌にはなりますが、マンション管理士や法律系専門職によるアドバイスを受けることは、十分以上のメリットがあると考えます
また、正当な管理会社にとっても、適正なセカンドオピニオンの意見があることは有用ではないでしょうか?
第18条 契約の解除
相互に解除できる旨が規定されており、この条項は特に業務上で問題になることはないと思います。
契約上謳われているような「破産、更生、民事再生の各手続き」が行われる事態や、登録の取消しが管理会社に起こることは、まずないと思われますが、万一、そのような事態に及んだ場合には、活用できる条項となっています。
第19条 解約の申入れ
標準で3ヶ月前通告となっています。
管理は継続的に行われることが前提となっている業務ですから、この3ヶ月前の通告の段階では、新しい管理会社も決まっている状態で、通告を行われることが一般的だと考えます。
慣れている管理営業担当者であれば別ですが、立上げ済みの管理物件しか引き継いだことがない担当者などであれば、把握していない事柄も多いと思われますので、スムーズな引継ぎを行うためには普段からの準備が欠かせません。
「特に引継ぐべきものがない」ということであれば、別ですが、「各種保管書類・証憑類の確認・引継ぎ」、「組合資産と管理会社資産の分別・確認」、「エレベーター保守会社間の引継ぎ」、「警備会社や監視装置の撤去・新設の調整」など、種々「引き継ぐべきこと」及び「確認すべきこと」が多々あります。
万一、この段階に至っても準備が整っていない場合には、担当者単独での引継ぎは難しい状況になっていると思われますので、上長などへ相談の上、社内協力を要請すべきと考えます。
第20条 有効期間、第21条 契約の更新
この辺りは、法律改正に伴い契約更新スケジュールが組織的に管理されている管理会社も多いと思われますので、特に問題はないと考えています。
ただ、中小の管理会社で、組織的な管理がなされていない会社に勤務しているフロント担当者であれば、個人的な年間スケジュールを作成し、業務処理を行う時期、契約更新の申入れ時期などの管理を行うことをお勧めします。
併せて、隔年以上の実施スケジュールとなる、一部の排水管清掃や特殊建築物調査、非特定防火対象物の消防設備点検報告の届出など、毎年行われるサイクル以外のものも網羅できると、なおベターです。
第22条 法令改正に伴う契約の変更
この規定は、法令の改正などに伴う点検内容の変更や、消費税等の改正により費用の額が変更となった場合に、改正法令に従う旨を謳った条項です。
特に問題になるようなことはありませんが、通常、前年のデータを基に、更新契約を作成すると思いますので、改正された法令に則って、新しい契約書を作成することを忘れないよう注意が必要です。
第23条 誠実義務、第24条 合意管轄裁判所
こちらは、一般的な条項ですので、業務上留意すべき点はないと考えます。
最後に
保険証券の約款を読み込むような一部の方(私もその一人ですが:笑)を除き、フロント担当者含め管理組合のお客様も、毎年更新され、さらには全戸配布までされる契約書を、ほとんど読んでいません。
しかし、トラブルとなった際には、この「契約書」に基づいて解決が図られるはずです。
トラブルになってから読むという対応もありだとは思いますが、その場合には「知らなかった」とは言えないと思います。
そのような段階に至った時に、「マンション管理士」や「弁護士」等にご依頼いただいても構わないのですが、本来は、「管理組合」「管理会社」相互で内容を把握した上で、そもそも我々に依頼しないで済むような環境が整えられることが理想だと考えます。
今までは、フロント担当者という、ある程度の基礎知識を前提とした「プロ」を対象とする解説を書きました。
マンション管理に関する次回以降の記事については、一般の方に向け、できれば専門用語を使わず、使う場合も用語解説を交えながら、記事化したいと考えています。