コンサルとして気になる管理組合会計決算報告のポイント
本日は、一昨日(2015.11.25)の続きで、管理組合決算の具体例について、記事投稿したいと思います。
今日は、少しウェブマーケティング煽りっぽいタイトルにしてみて、チャレンジです(笑)
なお、具体的な事例も挙げながら、まとめてみたいと思いますので、昨日よりも少し経理や会計実務がわかる方向けの記事となります。
発生主義の原則
会計処理のうち、もっとも基本的な考え方の一つとして「発生主義の原則」と「現金主義の原則」の二つがあります。
発生主義の原則は、その収入や支出が発生した段階でその収入や支出を認識する会計処理の考え方で、売上にたとえれば、企業がサービスを提供した段階で、売上を認識し、その売上は売掛金として後日、入金されるものとして処理されます。
これに対して、現金主義の原則は、お金が入ってきた段階で収入を認識する方法で、もっともと保守的な収益認識の方法と言えると思います。
管理組合の会計処理として具体例を挙げると、発生主義の原則通りに運用されていれば、管理費の滞納があったとしても、管理費収入は未収入金として計上され、収入があったこととして会計処理されます。
一方、支出として長期保険や積立保険を支払った場合には、費用としては当期に該当する部分しか費用計上すべきではないにもかかわらず、一括費用として計上されていることが多々見受けられます。
これを過剰適用すると、受取利息も期間按分して、当期に該当する部分を未収入計上したり、年払いの掛捨保険も、期間按分して前払費用として資産計上したりするなどといった細かい運用も可能です。
しかし、あまりに少額のものに関しては、重要性の原則(重要性の低いものは、複雑な処理をしなくてもよいとする原則)を適用して、経過勘定処理しないといった運用がなされるような会計基準を規定する必要があると考えています。
長期保険などの多額で期間按分が必要な費用の支出がなければ、大きな問題ではないのですが、規程がないと、その時の関係者の考えで会計処理が変わってしまい、期間比較や収支の正確な読み取りが難しくなり、一貫性がない決算書となってしまいます。
決算書類
決算報告で利用される主要な会計書類には、次のものがあります。
(管理組合向け記事なので、株主資本変動計算書などは除いています)
損益計算書
こちらは解説不要と思われますが、企業会計で用いられる一期間の損益を報告するための計算書類です。
貸借対照表
こちらも解説不要と思われますが、企業会計で用いられる一時点での財産の状況を報告するための書類です。
キャッシュ・フロー計算書
企業会計において、発生主義で会計処理されている収支計算を、キャッシュ(現金及び現金同等物)ベースで計算しなおしたものです。
シンプルに言えば、資金繰り状況を確認するための会計書類です。
上場企業などしか作成の義務付けがないことから、一般には馴染みが薄く、利用されている管理組合は見たことがありません。
正味財産増減計算書
こちらも馴染みがないと思われますが、公会計で用いられる計算書で、現金基準で会計処理される公会計で資金外取引による収支を反映させた損益計算書に代わる計算書類です。
収支計算書
多くの管理組合で名称使用されている計算書類で、会計方針で決定した「資金」と定めたものの一会計期間の収支(キャッシュ・フロー)を報告するための計算書類です。
多くの管理組合では、管理組合会計の特有原則である「予算準拠の原則」に則って、予算と実績の比較のため、両者を併記して報告されていることが多いと思います。
財産目録
管理組合法人では、法定で作成が義務付けられている書類で、 資産及び負債の科目ごとにそれらの金額を表したものです。
決算書を見る上でのポイント
管理組合には会計基準がないことから、そもそもどの決算書類でどのように報告するかの決まりがなく、単純に管理会社がもってきたものをそのまま承認する形態で報告が行われていると思いますが、確認すべきと思われるポイントは、次の通りです。
発生主義などの会計処理原則を明らかにすること
最近では、現金主義で処理している管理組合は少なくなったと思いますが、会計書類を見るための大前提ですので、書類をみてその疑いが濃い場合には、しっかりと管理会社の処理基準を確認する必要があると考えます。
収支計算書には予算と実績の比較ができるように併記を求めること
これはほとんどの管理組合で実施されていると思いますが、予算と実績の分析は最低限行われるべきことです。
もし、それがなされていないのであれば、ぜひ要望してください。
収支計算書の「資金」の範囲を明らかにすること
管理会社の担当者もよくわかっていないと思いますが、そもそもその取り決めが無いと収支計算書をどのように読んで良いのかがわからなくなります。
ほとんどの管理会社は、企業会計と同様に処理されていると思いますので、最低限、その部分だけでも確認されることをお勧めします。
収支計算書に「当期剰余金」の記載を求めること
企業会計ではありえない話なのですが、大手を除き、中小の管理会社の決算報告書を確認すると、このようなことが散見されます。
この項目が無いと、当期の収支が赤字だったのか黒字だったのか繰越剰余金に紛れてわからなくなってしまいます。
この手のごまかしは横行していそうですので、ここをまず確認して管理会社の姿勢を見極められてはいかがでしょうか?
貸借対照表に長期保険などの資産がしっかりと計上されているか?
経験上、大手の財閥系などを除き、実施されていない場合が、かなりあります。
そもそも会計担当者に知識がない場合も少なくないため、このような事態が発生するのだと思いますが、会計処理の基本で、期間比較に必要と考えます。
管理組合は、もっぱら前期比較しかしないという性格の団体です。
しかし、10年は大変にしても、5年程度の工事費変動や支出入の財務分析を実施してみると、電気料金の変動状況など学びが得られると思います。
まとめ
大手の管理会社に委託している管理組合の大半では、このような事例に遭遇することは、めったにないと思います。
しかし、中小の管理会社では、自社の都合を優先しがちのため、管理組合にとって有用な仕事をしているは言いがたいことがあります。
営利企業である以上、企業が利益を追求することを一方的に批難すべきとは思っていません。
ただ、このような現実があるからこそ、「マンション管理適正化法」が制定され、「マンション管理士」という資格が存在し、活躍すべき価値があると考えています。
また、安易に高額な報酬を得やすい戸数規模大きい管理組合だけを顧客対象とするのではなく、経済力その他の要素から、厳しい環境に置かれがちな、中小の管理組合に対してこそ、マンション管理士は価値提供できるよう、見識を深め、役立てるよう努力する必要があるとも考えます。