相続放棄と分譲マンション
購読しているマンション管理新聞で、分譲マンションにおける相続放棄が1面記事になっていました。
ちょうどいま、通学している社会人大学院では、相続税法を学んでいます。
多額の税額が発生し、納税できなくなることも大変だと思いますが、相続放棄が起こり、次の区分所有者がすぐに決まらないことで分譲マンションの管理組合も相当困った事態に陥ります。
マンション管理新聞の記事では
マンション管理新聞の記事は、NPO法人日本住宅管理組合協議会(以下「日住協」)が会員管理組合を対象に行ったアンケートが基になっています。
アンケート結果としては、会員139組合のうち、46組合が回答し、10組合において14件の相続放棄があったとのこと。
相続放棄の発生時期は、築5年未満5件、5年以上10年未満5件、10年以上が4件(ただし、この4件の平均築年41年)と分散しており、2極化していることがよくわかります。
これは、私の想像としては、築年が浅いマンションでは、建物価値よりも債務額が大きくなるオーバーローンが生じ、財産を受ける人からすると、債務を背負う形になるからです。
すでに自宅を持っていれば、借金を背負ってまで相続する必要はありません。
そのため、他の価値ある相続財産がある場合を除き、放棄が起こりえます。
反面、一定程度の返済期間が過ぎると、返済が進んだ結果として、今度はマンションの価値が債務額を上回ります。
したがって、相続財産であるマンションがプラスの財産になります。
この場合には相続放棄をする方が損になりますので、単純承認、ないしは限定承認が行われると考えられます。
最後に、高経年マンション(ここでは築40年超を想定)となった場合です。
この場合、都心部など立地の良い場所を除き、マンションには売買上の価値がほぼなくなります。
すると、高経年マンションは管理費とともに徴収される修繕積立金が高額となっているケースが多く、その管理費等の将来債務を上回る将来価値(賃貸収入が見込める、再開発・建替などで資産価値の上昇が見込めるなど)を見出せない限り、多くのマンションは相続財産としてマイナスの財産となります。
したがって、相続放棄するのはごく普通の対応です。
このアンケート結果は、現状の分譲マンションの仕組みから考えると、いたって普通の結果と考えられます。
管理組合サイドに立って考えると
これとかなりの類似テーマとして、不在区分所有者に関して、所属している神奈川県マンション管理士会の法務研究会で9月に発表がありました。
区分所有者が行方不明になる場合も、相続放棄により区分所有者が不在となった場合も、最終的に競売等により次の区分所有者が確定するまでは、管理費等の請求ができない状態となり、その間、管理費等収入が管理組合に入ってこなくなる恐れがあります。
もちろん、分譲マンションの管理費等は、特定承継されることから、次の区分所有者に請求することはできます。
しかし、それも次の区分所有者が確定しなければなりません。
放棄された相続財産の精算や部屋そのものが競売にかかった結果として、その剰余から弁済される可能性がないわけではありませんが、高経年マンションでは、その可能性は低く、早く次の区分所有者が確定しないと、ずっとその部屋の区分所有者が確定せず、管理費等債権の回収どころか、将来の管理費等収入もすべて得られないこともありえます。
この問題点は、利害関係者として管理組合サイドから債務者(相続人、もしくは次の区分所有者)を確定させるために動くと、相当な時間や費用がかかるという点にあります。
以前からのこのような問題点と可能性は指摘されていました。
今までは相当な高経年マンションや一部のリゾートマンションでこのような事例があると噂を聞くだけでしたが、そろそろ現実的な問題として顕在化しつつあるようです。
実際このような事例に当たった場合には、管理組合で独自に動くことは相当ハードルが高いことから、早い段階で、この辺りに詳しい弁護士(依頼内容によっては、司法書士又は行書書士に相談することも可能)に相談することをお勧めします。
まとめ
今までは債権者(その部屋の権利者という意味)が確定するまで様子見をしていれば、競売となり、次の区分所有者から管理費等を回収を期待できました。
しかし、今後、マンションの高経年化が進むと必ずしもこのような形で回収できるといい切れません。
このようなことから、種類は異なりますが、戸建てにおける「空き家」問題のようなことが、将来的にはマンションにおいても起こると考えています。