専有部分リフォームに関するルールはしっかりと決まっていますか?
先日(2018.5.14)、分譲マンションのリセールバリューという観点からマンション管理に関して記事を書きました。
そこで管理組合運営のソフト面での改善と、そのPRや広報をお勧めしました。
しかし、ソフト面での改善と一口でいっても様々あります。
基本は、地道な情報収拾とコミュニティ活動の進展といった地道にな管理組合活動がなのですが、その中で注目されることは少ないながら、重要なポイントの一つに、専有部分の修繕ルールの整備とその履歴の保存があります。
ルールが未整備だとどのようなことが起こるのか?
長らく国土交通省から公表されているマンション標準管理規約ですら、しっかり整備されている状態とはいえませんでした。
もちろん、申請や許可に関する規定は随分と前からあります。
しかし、どのような基準で許可をすれば良いのかに関しては、公的にはフローリング改修や窓ガラス等改良程度しか標準的なルールが存在しませんでした。
そこが問題になったからこそ、一昨年(2016.3)のマンション標準管理規約の改正では、「区分所有者が行う工事に対する制限の考え方 」がコメントに追加されました。
未整備だと起こる問題として、具体的には次のような事例があります。
電気・ガス容量
古い団地型マンションなどでは、電気契約容量(〇〇A)やガス給湯器の出湯能力(〇〇号)が小さく、建築された当時からライフスタイルが変化したこともあり、大きい容量に変更したくなる場合があります。
ところが、マンション設備全体としての容量に上限があることから、個別に変えてしまうと、あるとき上限に達してしまうとそれ以降は容量を増やすことができなくなってしまいます。
しかし、この容量、多少のゆとりがあることから、この問題が知られていなかったこともあり、以前は個別に変えることができていました。
そのため、同じマンションであるにもかかわらず、容量変更できている住戸と、できていない住戸という差が生じていることがあります。
少数の住戸で変えているだけであれば、問題が発覚せずそのままという管理組合もあると考えられます。
こうなってしまうと解決するのは簡単ではありません。
遮音性能・音が発生する設備への規制
私が業界に入った20年ほど前にはまだあった問題ですが、過去には畳の部屋をフローリングに改装することなどで騒音問題が発生していました。
現在では、フローリングの性能(遮音等級ΔLなど)に基準を設けることで対処されています。
ただ近年は、新しい問題も起こっていました。
これは中古マンションの流通が進むにつれリノベーションが盛んになり、天井を直天(内装の二重天井を剥がしてしまった状態、コンクリートの天井が直接露出するのでこう呼ばれます)にしてしまうリフォームが見受けられるようになったことによるものです。
最上階であれば問題はないのかもしれませんが、上階がある場合、従来の二重天井分の遮音性能がなくなります。
結果として、騒音問題が発生していました。
また、この問題は上階の音がリフォームをした下階の部屋に響きやすくなるという問題も併せて引き起こします。
その他にも、ジェットバスのような設備やディスポーザー設備(交換時)など音を発生させる設備もあり、これらにも機器の禁止、指定、審査・承認などのルールが必要です。
昨今では、天井にも防音対策が必要であることがリフォーム業者間で共有されるようになったので、この問題の発生件数は減っていますが、ルール未整備だと、どこまでの対策を施せば良いのか、どこまでの範囲リフォームしていいのかがわかりません。
やはり結論としては、騒音問題が起られないよう管理組合としてのルールが整備されていることが望ましいと考えます。
管・配線など
上下水道、電気配線などにもルールが必要です。
施工上・管理上の問題として、共用管との接続不良、ウォーターハンマーによる騒音、勾配不足による排水不良、排水管の掃除口不設置など、簡単に考えただけでも専有部内修繕の際にこれぐらいの問題が発生する可能性があります。
また、新たな問題として、エコジョーズの排水による共用廊下床汚れなども発生しています。
これは、元々給湯器には排水経路は必要ありません、ところがエアコンのようにエコジョーズには排水が必要です。
その結果、エコジョーズの排水が共用廊下に垂れ流しにされるのです。
さらに、修繕履歴の保管のために必要と考えています。
以前にも記事にした通り、法的ではない書類であることから、共用部分の修繕履歴すらしっかりと残せていない管理組合もあります。
そして、これは共用部分だけではなく、専有部分修繕においても同様です。
給排水管漏水問題は、共用管のみならず専有管も含めたマンション全体としての問題です。
専有部分だからと放置すると、漏水問題を根本から解決できません。
申請に関する諸規定(範囲、内容、期限、様式、手続方法、決裁方法など)とその履歴を、しっかりと整備・保管しておくことで全体改修の検討をスムーズに進めることができるはずです。
むしろ、修繕履歴がない中で検討するとなると、それを把握するだけで労力や費用がかかるといった事態になりかねません。
まとめ
新築不動産の価格高騰と供給減を受け、中古不動産(特に中古マンション)の価格は上昇を続けています。
新築と中古の価格差の調整局面にあると考えることから、この傾向はしばらく続くものと考えています。
このような状況では、市場に十分な需要があることから、今回ご紹介したような管理面での改善はなかなか価格面などに反映されません。
一方で、皆さまもご存知の通り、いまの日本が人口減少社会となりつつあることも間違いありません。
したがって、この傾向がいつまでも続くとは、私は考えていません。
また、地方ではすでに始まっていると噂されていますが、今後、不動産物件は選別(そのまま売れる物件、安くすれば売れる物件、安くしても売れない物件)局面に入るものと想定しています。
その時、このような履歴が整備されているマンションとそうでないマンションとに差が現れるのではないでしょうか?
さらにいえば、このような対策は一朝一夕ではできない対策であることからこそ、大きな差別化に繋がると考えています。