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湘南藤沢の開業税理士・マンション管理士・社会人大学生のブログです

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セミナー関連マンション管理建築・不動産関連

分譲マンションの長期修繕計画と修繕周期について

昨日(2018.5.1)、さくら事務所さん開催のセミナー「大規模修繕工事の最新トレンド!これからの修繕周期は18年!」に行ってきました。

さくら事務所さんのセミナーには、2年半ほど前にも不動産投資の観点から「EXCEED-X 不動産投資家倶楽部」に出席し、勉強させてもらっています。

【EXCEED-X 不動産投資家倶楽部】のセミナーへ行ってきました!

以前の記事でも書いていますが、さくら事務所さんには「所有マンション」の管理組合が仕事を依頼したことがあるなど、色々ご縁があります。

また、この度義務化された「ホームインスペクション」の流れは、この事務所会長の長嶋さんの影響を抜きには語れないでしょう。

礼賛したいわけではありませんが、業界において先進的な観点から事業経営されていることは間違いないと思います。

奇しくも4月27日には、事務所にお邪魔させていただいた株式会社シーアイピーの須藤社長もダイヤモンドオンラインで、今回のセミナーテーマである大規模修繕の修繕周期に関する記事が公開されました。

 

修繕周期の長期化は必然の流れ

須藤社長の記事にしても、今回出席したさくら事務所のセミナーにおいても、要点は分譲マンション建築の大規模修繕サイクル12年は、世の建物修繕周期サイクルに比べ、保守的に過ぎ、短すぎるということです。

確かにその通りです。

さくら事務所さんでは公共建築の話を引き合いに出されていましたが、投資型ワンルームマンションの管理会社に在籍していた際の経験に照らしても、確かにそんな短い周期では修繕を実施していませんでした。

建築大規模修繕の18年周期が妥当であるかどうかはともかく、収益が増える見込みがあるわけでもない管理組合がその収支を改善するため、修繕周期を長期化させることにより、修繕コスト、ランニングコストも含めた建物トータルとしてのライフサイクルコストを減らそうとする方向に進むのは当然だと思います。

ただ、これまで12年周期を前提に進めてきた管理業界サイドは、これを素直によしとは考えないでしょう。

なぜなら、12年周期での修繕売上げを見込んで事業計画しているからです。

営利企業の立場にたてば、そこに市場があるわけですから、それを見込んで事業計画を立てるのは、これも当然です。

修繕周期が伸びてしまえば、結果として、市場規模が縮小することは一面の事実です。

顧客視点という意味においては、この流れは顧客利益に貢献する考え方ですので、私も正しい流れと考えます。

 

足場が絡む外壁工事に保守的な基準を持ってくること自体は悪いことではありません

一方で、修繕するとなれば、仮説足場(ゴンドラなども含む)が必要となる外壁工事に対して、漏水事故やタイル剥落が起こる前に修繕しようとすることが一概に悪いことともいえません。

セミナー講師のさくら事務所の土屋輝之さんも、その辺りはフォローされていました。

居住者相互の生活圏での工事ですから「漏水が起こってから直せばいい」という理屈も難しい以上、わざわざ足場を掛けないと直せない箇所であることもあり、事故発生時のリスクをコスト以上に大きく見積もり、保守的に考えることは管理会社としては、むしろ当然です。

元業界を擁護したいわけではありませんが、その理屈が成り立つことも一面の事実です。

 

過去には妥当だったとしても今でもそうとは限らない

私が分譲マンション管理業界に入った22年前には、すでに建築の大規模修繕の必要性はかなり認識されていました。

少なくとも、大規模修繕が必要ないとまでいう方はいらっしゃらなかったように思います。

しかし、修繕工事の必要性は認めながらも、現在、国土交通省から指針やガイドラインが出されているような精度の高い長期修繕計画は普及しておらず、修繕積立金の積立額の平均額で、現在よりも30%程度低い状況にありました(国土交通省「平成25年度マンション総合調査結果〔概要〕」3頁、「月/戸当たりの修繕積立金の額」より)国土交通省資料より引用

 

他方、当時でも多くの管理組合(平成5年度調査では72.8%)で長期修繕計画は作成され、それに基づいて修繕積立金は算出(平成5年度調査で64.7%)していると回答しています。

ですが、その計画期間は現在のような25年から30年ではなく、もっと期間の短いものでしかありませんでした(平成15年時点でも19.7%、国土交通省「平成25年度マンション総合調査結果〔概要〕」4頁、「計画期間25年以上の長期修繕計画に基づき修繕積立金を設定している割合」より)

計画期間25年以上の長期修繕計画に基づき修繕積立金を設定している割合

こんな状況では、実施するべき工事にすら事欠く予算しか確保できません。

そのため、遅ればせながら、適正な管理状況や修繕積立額とすることなどを目的として、平成12年に「マンション管理の適正化の推進に関する法律」が制定され、その後、関連法規の制定・改正、指針やガイドラインの公表などが行われてきました。

未整備だった当時から現在までには、このような流れがありました。

修繕積立金の積立額も十分と言えるかどうかにはまだまだ議論の余地はありますが、アンケートに回答した管理組合の平均額としては、30%アップという結果に結びついています。

ただし、過剰に積み立てる必要もありません。

修繕コストを削減し、必要積立額自体を減らすことも一つの対応策です。

長期修繕計画が普及し、積立額も改善してきた面からみれば、次はその計画の妥当性を検証するべき段階にきたのだと考えています。

 

ただし、現状では実績不足という課題があります

多くのマンションでこの修繕周期が採用される理由に、施工実績の問題があります。

ある程度の実績は積まれているようですが、さくら事務所さんからのご紹介仕様にも、私の経験上、一部検証不足が感じられるものがありました。

現在、外壁塗装で普及している複層微弾性の塗装仕様も、過去の手痛い失敗から産まれてきたものです。

修繕周期を伸ばすためには、適切な部位で、より耐久性・耐候性・耐汚染性の高い材料を使う必要があります。

そのため、比較的使用実績の浅い材料を使うことになりがちであることからリスクがあります。

また、そのような材料を使ったことがある施工会社も限られます。

この辺りの問題点をクリアした上で、個別のマンションの状況に適した仕様提案できる設計会社も限られるでしょう。

長期修繕計画上、どのような単価・施工金額を盛り込むのかも、まだまだこれからの段階です。

 

まとめ

さくら事務所さんのセミナーでもおっしゃられていましたが、このような計画は専門家も複数導入して様々な角度から検証されることを、私もおすすめします。

また、このような計画は、専門性の高さから外部専門家主導にもなりかねない部分もあり、管理組合内部にも相当なマネジメント能力が求められると考えます。