南日本高圧コンクリート事件
週末の「Tax Accounting(税務会計)」後半の講義に向け、予習をしました。
このケースは、グループディスカッションの班分けにおいて、私が所属しているグループの担当となったケースです。
そのため、プレゼンができるように、パワーポイントの資料も並行して作成しています。
南日本高圧コンクリート事件
同族会社間で行われた売買取引が異常に低価であるとの理由から、課税当局より否認され裁判となった事件です。
その取引の背景まで判決文から読み取ることはできませんが、それまで倍近い価格で販売していた商品を、同族会社に対して、半額に満たない価格で販売していたことが問題となっています。
当事者は、製造原価が下がるだけの理由があり、異常な低価ではなく、適正価格である旨を主張しています。
そこで、法人税法に規定する「同族会社等の行為又は計算の否認」の適用の是非が争われました。
同族会社
本人または親族、グループ会社などで株式等の過半数を保有し、それらの人や会社が、支配していると考えられる会社のことです。
そのため、別会社であっても同一の経営者が意識決定していると考えられることから、それらの会社間の取引は、その他の一般企業の取引とは異なり、税金を安くするために、不合理だったり、不自然だったりする行為を行うことができます。
そうすると、その他の一般企業よりも税金の負担を容易に軽くできてしまうため、とても不公平だという観点から、それを制限するために同族会社に関する規定は設けられています。
先ほどの「同族会社等の行為又は計算の否認」の規定はその一つです。
同族会社等の行為又は計算の否認
この規定が問題視されるのは、「法人税の負担を不当に減少させる結果となる」という条件で適用できることです。
原則、税金に関する規定は、「課税明確主義」という考え方から、税金が課される条件は、事前にはっきりとわからないと不公平だという観点に基づいて作られています。
しかし、この規定には、これ以上の条件が書かれていません。
どのようなことが「不当に減少させる結果となる」ものなのかは明確にはなってはいないのです。
租税法律主義
税金の大前提は、次の憲法84条に基づいています。
第八十四条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
行政の都合で勝手に税金を増やしたり、減らしたりできないように、法律にしないと税金をかけてはいけないことになっているのです。
そのため、明確に条件(課税要件と呼ばれます)が書かれていない「同族会社等の行為又は計算の否認」の規定は憲法に違反しているとの議論があります。
実際のところ、過去の判例から見ると、すべての人を対象としておらず、同族会社という一定の特殊な存在に対しての規定であることから、裁判所はこの規定は憲法には違反しないと考えています。
どんな場合に「不当に減少させる結果となる」のか?
他にも色々な考え方や問題点などがあるようですが、おおむね裁判で争われるポイントはここです。
どんな条件なら「不当」なのかというところです。
ここは裁判によって結論が変わっています。
条件があってすら、その条件に適合しているかどうで争われるのですから、どのような条件であるかが明確ではないのなら、これは当然そうなります。
今回のケースでは、「異常な廉価で販売した」との事実認定を受け、納税者が敗訴しています。
最近のIBM事件のケースでは逆に課税当局サイド、すなわち国が敗訴しています。
まとめ
普段から遭遇するようなことではありませんが、税金を進んでたくさん払いたいという人はあまりいないと思いますので、当然、こういう争いが起きます。
講義の性格上、そういうケースばかり勉強するせいだと思いますが、租税回避(合法)と脱税(非合法)との境目の不明確さに驚きます。
ただ、日々時々刻々と変化する多様な世の中を、すべてを文書法定化できるわけもなく、いたちごっことなる法律改正や裁判は、世の一つの常なのでしょうね。
また、講師の山田先生もおっしゃっていましたが、弁護士ではない、実務家税理士を目標とする我々の目的は、基本的にはこのグレーゾーンで戦えるようになることではありません。
こういう争いが起きないようにすることが基本姿勢です(逆に裁判を率先してやる税理士事務所もありかもしれませんが・・・)
あくまで現状の目的は、これらの判例や学説などを学ぶことにより、修士論文を書くための能力を高めるところにあります。