分譲マンション管理を俯瞰してみる
国土交通省から公表されている『マンション標準管理規約』の改正が、業界内では話題になっています。
業界人以外には、全く興味を持ってもらえない話題だと思っているのですが、税理士業界にも軸を移しつつあり、かつ、不動産賃貸業から個人事業者として起業した経験などに照らして、分譲マンション管理に関する私見をまとめてみたいと思います。
分譲マンション管理を例えるなら
分譲マンションでは、竣工引渡しの時点をもって、区分所有法という法律に基づいて、所有者全員を組合員とする「管理組合」という団体が結成されます。
この管理組合という団体は、「建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体」と位置づけられています。
どのような運営がなされるかは、「管理規約」という団体を運営するためのルールを、法律で強制されている一部の行為を除いて任意に作成できるため、この辺りは会社を設立し、定款を定める部分に似ていると感じています。
このため、少し乱暴な例えになってしまいますが、現在の分譲マンションは一般的に、所有している部屋の専有面積に基づいて設定される持分割合に応じた議決権が与えられることから、「会社株式を購入するような感覚に近い」と感じています。
通常、株式を購入するということは、事業の成功度合いに応じて配当を受け取れますが、管理組合は営利団体ではないため、配当はありません。
しかし、経済面に限定して言えば、運営によっては、ランニングコストを抑え、長期的な支出を抑制することができるという効果があると考えています。
異なっている点は
例示のため、主に共通点から入りましたが、当然に色々異なっています。
会社経営でも結構同じだと思うのですが、起業直後の経営者と同様に「管理組合」結成直後の分譲マンション所有者のほとんどは、企業経営・団体運営に関する素人です。
企業経営者は、利益の追求のため、もっぱらそれを専業として勉強しつつ、仕事とされますが、分譲マンションの所有者はそうではありません。
標準管理規約に基づけば、総会にて選出した役員によって「理事会」を構成し、運営を委任しますが、それを専業としない素人同士での運営は当然難しいことから、「マンション管理業者」に一括委託することで、運営を補助してもらう形式となっています。
これは運営の「丸投げ」です。
しかも、業者選定すらも、マンション購入時には、すべて販売事業者が用意していますから、それも「お任せ」です。
ここに、専門アドバイザーとして名称独占資格でしかない「マンション管理士」という資格が法定されることとなった問題の根幹があります。
管理会社は、営利企業です。
しかも、管理組合の会計を預かり、出納も代行した上で、清掃や各種点検、修繕工事などの業務も請け負っており、「相手の財布の中身がわかっている営利事業者」なのです。
理事会や総会に諮るという形式はありますが、その有効性は、所有者の中に、「契約事務や会計、修繕工事に関して、明るい人がいるかいないか」、「この業務に興味を持って対応できるだけの時間的余裕を持てる人がいるかいないか」だけに依存していると感じています。
話題になっている標準管理規約の改正点は
国土交通省で検討が進められていた改正案の内容が示され、昨年の中頃から、業界で一番話題になっていたのは、「コミュニティ条項の削除」です。
これは、従来の標準管理規約に管理組合の業務として盛り込まれていた「地域コミュニティに配慮した居住者間のコミュニティ形成」という条項が、改正によって削除されるというお話です。
様々な過去の経緯や判例などがあって、この結論に至っているのですが、マンションに住んでいない人にとっては「だから、どうした」という程度の内容だと思いますし、実際、標準管理規約は、あくまで「標準」であって、ガイドラインなどと同様に強制力もなく、ましてや、過去に遡って適用されるような話ではありません。
ただ、それでも現状、「標準」とされていた内容が変わると「お国のお墨付き」を失ったような意識となり、既存の管理組合内部では、合意形成上、とても大きな後ろ盾を失ったように感じているのです。
まとめ
意思決定を優先すれば、経済的合理性のみを追求していけばいいと考えます。
しかし、集団の意思決定は、経済的合理性だけでは成り立っていません。
中小企業も営利企業のはずですが、お金に換算出来ない部分で、様々なコストを支払っているはずです。
ましてや、生活圏を共有する管理組合では、経済性からだけで言えば、さらに不合理な面もあります。
組合運営がスームズに進んでいる中、経済的合理性の追求のみに、我々のような第三者を入れる必要はないと思っていますが、不合理なだけでは、いずれ維持していくことが難しくなります。
管理組合も、合意形成上、管理会社に「お任せ」しているだけでは、「規模のメリットがない」「お金のかかる設備が多い」マンションから、経済的合理性の問題によって、維持が難しくなってくると考えています。
そのため、経営者のように勉強し、自力で運営できるようになっていただくことも必要ですし、場合によっては、我々のようなセカンドオピニオンを入れることによって、管理組合運営をリフレッシュすることも必要と考えます。