A Written Oath

湘南藤沢の開業税理士・マンション管理士・社会人大学生のブログです

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社会人大学院関連

ヤフー事件とIBM事件

「 Tax Accounting」の講義で使用する最後の2ケースです。

これまで8ケースの集大成的事例で、かつ、最新の判例です。

この2ケース、形は違えど、いずれも繰越欠損金が絡んでいます。

そして、いずれのケースもゼミの先輩の修士論文用のパワーポイントから、その要旨を読み取らせていただきました。

ゼミの先輩方に感謝です!

 

ヤフー事件

組織再編税制を利用した繰越欠損金の承継が否認され、納税者が敗訴しています。

ソフトバンクは、100%子会社であったIDCS(繰越欠損金542億円)をヤフーに吸収合併させることを持ちかけ、その直後の株主総会で、ヤフー代表取締役をIDCSの非常勤の取締役副社長に選任(無報酬)しています。

これによりみなし共同事業としての適格合併の形式が整います。

そこで、ヤフーはソフトバンクに繰越欠損金の引継ぎが税務当局に否認された場合には、その負担をソフトバンクに負わせる書面を差し入れさせています。

最終的に、ソフトバンクがヤフーに対してIDCS株式の全部を譲渡(譲渡価額450億円)する契約を締結し、譲渡・吸収合併となります。

最初の提案から4月ちょっとのスピード合併です。

この行為の結果として、ヤフーはIDCSの繰越欠損金542億円を損金に算入して申告を行っています。

これを課税当局は、法人税法132条の2「組織再編に係る行為又は計算の否認」の規定を適用して、否認し、判決もそれを採用しています。

 

IBM事件

逆にこちらのケースでは、法人税法132条1項「同族会社等の行為又は計算の否認」の適用が否認され、課税当局が敗訴しています。

「日本IBM」とその親会社である「IBM APH」間で行われた自己株式取得取引が、「IBM APH」に4,000億円以上の赤字を発生させ、連結納税制度を活用することにより、黒字の日本IBMとその収支を合算し、結果として法人税納税額ゼロを実現しています。

この親会社に赤字を発生させたスキームは非常に複雑です。

もともと日本IBMの株式を持っていた米国IBMの子会社World TradeとのIBM株売買も絡んでいます。

そして、驚くべきことに、米国側の法人も米国の税制を活用して、納税額ゼロを実現してます!

一応、ケース検討によりその仕組みを理解としたと思っています。

しかし、残念ながら、私にはこの仕組みを簡単には説明することができません。

結論、すべての取引は合法に行われており、結果として納税額はゼロとなり、さらには、裁判においてもこの取引が「法人税の負担を不当に減少させる結果となる認められる」というところまで課税当局は立証できませんでした。

 

まとめ

IBM事件は、納税者サイドがその手法を適法、かつ、着実に実行にしていたことに対し、ヤフー事件は、短い期間に形式だけ整えただけであった手法の粗さを感じます。

その違いが判決に現れたものと考えています。

そして、どのような事実関係があったのかが法律適用の判断の分かれ目になっています。

納税者の立場に立てば、税金の負担を軽くするためにはしっかりと証拠を残し、課税当局側から突っ込まれる余地をなくすことが大切と言えます。

身近なことに例えれば、帳簿はきっちりつけ、証拠(請求書・レシート等)をしっかりと残すことが大事ということですね。