フロント担当者から見た業務処理の要領とポイントについて(管理組合の会計の収入及び支出の調定)
本日から何回かの記事に分割して、分譲マンション管理について、業務を実施しているフロント担当者サイドから業務処理の要領やポイント、注意点などについて、まとめてみたいと思います。
今まで、分譲マンション管理組合の話題については、管理組合の居住者や役員の立場から記事化しましたが、今度は逆に、業務を行っている管理会社やフロント担当者サイドの立場から、その業務処理について、連載記事化します。
これは、逆の視点から見ることで、多少の手落ちはともかく、少なくない見落としなどがある担当者は、「勉強不足」、「時間不足」、「上司などのダブルチェックがない」など、その管理会社の問題点が見えてくる端緒となり得ると考えるからです。
また、管理会社のフロント担当者が読んだ場合には、自らの業務を見直し、レベルアップするきっかけとしていただければとも考えます。
(むしろ、この程度は知っていて、当然だと言われるかもしれませんが・・・)
具体的な内容については、私の業務経験を基に、(一社)マンション管理業協会が出版している『フロント事務管理業務マニュアル』、『管理業務主任者証の交付に係る講習テキスト』などを参照しながら、国土交通省から出されている『マンション標準管理委託契約書別表』記載の順に、解説を行います。
そして、標準管理委託契約書に「事務管理業務」「管理員業務」「清掃業務」「建物・設備管理業務」と4つある業務のうち、本日は「事務管理業務」のうち、「管理組合の会計の収入及び支出の調定」について、投稿します。
事務管理業務
まず、事務管理業務は、法定される「基幹事務」と「基幹事務以外の管理事務」の2つに分けられます。
基幹事務とは
基幹事務は、一括して再委託(丸投げ)してはいけない法定されている分譲マンション管理会社の業務です。
逆に言えば、一括して再委託しなければ、他の業者への再委託も可能ですし、基幹事務の全部ではなく、部分的に受託すると「基幹事務」ではないとの解釈が成り立ち、そのため「マンション管理業」の義務からも外れるといわれています。(参考リンク:『マンション管理に関する基礎知識 ~管理会社との付合い方ほか~』)
これは、マンションの管理の適正化の推進に関する法律第2条第六号に「基幹事務」が「管理組合の会計の収入及び支出の調定及び出納並びにマンション(専有部分を除く。)の維持又は修繕に関する企画又は実施の調整をいう。」と定義されていることによるものです。
法律では、その取り扱いにつき、厳密に用いられている用語が幾つかあり、この「及び」と「並びに」は、英語で言う「And」の意味で用いられています。
従って、この並列して繋げられている業務全てを一体として「基幹事務」ということになり、一部でも欠けていれば、基幹事務ではないとも言えるからです。
「基幹事務」と法定されるだけあって、事務管理業務中でも、特に重要な業務です。
法定される基幹事務は、定義の通り、次の3つの業務です。
1)管理組合の会計の収入及び支出の調定
2)出納
3)本マンション(専有部を除く。以下同じ。)の維持又は修繕に関する企画又は実施の調整
本日はこのうち「管理組合の会計の収入及び支出の調定」の実施要領について、解説したいと思います。
管理組合の会計の収入及び支出の調定
「調定」とは聞きなれない言葉ですよね。
これは、「調査して確定すること」を意味し、公会計(官庁会計)で用いられる用語で、企業などの私会計(企業会計)では、損益について「算定」という用語が用いられています。
ここでは次の業務を行うこととなっています。
収支予算案の素案の作成
標準管理業務委託契約書には、実施時期が明記されていませんが、予算案は、会計年度が終了する1か月ぐらい前には作成する必要があると思われます。
本来予算案は総会で承認され、確定します。
管理組合の総会は、以前の記事『管理組合主導の会計にしたいなら、確認しておきたい3つのこと』でもご紹介した通り、その開催期限が「新会計年度開始以後2ケ月以内」となっていることから、それまでの間は確定しません。
そのため、収支決算案が確定する段階(通常、新会計年度開始後1ケ月前後)まで、収支予算案を提出しないことが多いと思われますが、これには問題点が2つあります。(この期間の関係性は、図がないとわかりにくいですね。後日、タイムテーブルの図を追加します)
一つ目は、予算案に盛り込むべき、来期修繕などの予算を検討する期間が短くなり過ぎることです。
管理組合サイドでは、総会議案書を確定するための理事会が開催されるタイミング一発で、予算を確定しなければならなくなり、仔細に検討する時間がなくなってしまいます(もちろん、粗探しをして欲しくないから、直前に出すというお話であれば別ですが・・・)
2つ目は、先ほどの裏返しで、このタイミングで予算案を検討することによって、逆に来期の予算に盛り込むべき課題を、しっかりと準備することができることです。
私は、この予算案を作成する直前の建物巡回点検では、現地管理員へのヒアリングなども行った上で、来期予算を意識した点検を心掛け、見積もり手配などが間に合うように、注意していました。
これらの他、当然のことながら、定期総会時からの積み残しの確認、長期修繕計画で予定されている計画修繕分の予算計上など、この時点で反映させておくべきことは漏れのないように確認することが必要です。
また、消費税の税率改定や、電気料金などの公共料金の値上げなど、来期に反映されるべき公租公課については、漏れがちですので、ご注意ください。
(人に注意を促しつつも、自分がよく見落としていました・・・)
収支決算案の素案の作成
収支決算書の案文については、おそらく分業化が進んでいることから、会計担当者から資料を受け取って確認するのみだと思われます。
しかし、会計担当者のレベルによっては、長期保険など資産計上すべきものが費用計上されてしまうケースなどがありますので、証憑類との突き合わせ等とともに、しっかりと確認をした上で、提出する必要があります。
収支状況の報告
これも、以前の記事『管理組合主導の会計にしたいなら、確認しておきたい3つのこと』でもご紹介しましたが、部分委託などの例外を除いて、マンション管理業に該当する管理委託契約では、「毎月末日までに前月における収支状況を書面(メールなどの電磁的方法の承認があれば、書面でなくとも可)により報告する」義務があります。
「渡すつもりで、忘れていた」など言い訳は多々あるかと思われますが、法定の義務ですので、会計担当者からの直接の送付などでなければ、業務の月次報告などとともに、遅滞なく、送付されることをお勧めします。
まとめ
この業務、予算を大きく超えて支出してしまったり、逆に予算計上されている事業の実施を失念してしまったりするケースもあり、決算時期に気付いても遅いことがよくあります。
日々の業務の中で、各管理組合の収支・事業状況をしっかりと確認しながら業務を行うことが、本当のポイントだと思っています。
(こう言いつつも、理想と現実は、かなり違うことはよくわかっているつもりです・・・)
この実現のため、業務の中に、しっかりとチェックできる仕組みを可能な限り負担のかからない形で導入できるか否かが、漏れなく、遅滞なく、処理できるかどうかの分かれ目になっているような気がしてなりません。
大概、業務がオーバーフローして(又はしそうになって)転・退職している私が偉そうにいえることではありませんが、現役フロント担当者の皆さんは、ご留意頂くとともに、ご無理のない程度に取り組んでください。(身体を壊しては元も子もありません。会社は責任を取ってくれませんし、健康はお金では取り戻せませんので、責任の取りようもないとも言えます)