納税義務の免除の特例規定のうち、新たに設立された法人に係る納税義務の免除の特例について、まとめてみたいと思います。
この特例規定は、消費税の課税を逃れるために行われる行為(「租税回避行為」といいます)を防止するために改正が度々行われた規定です。
実際に自分が払っていないので偉そうにはいえませんが、不動産購入など億単位の資産は消費税だけでも一千万円を超えてしまいます。
消費税を払うという痛税感を避けたくなる気持ちはよくわかります。
(別にやっていいという意味ではありません:笑)
法律に書いてないから合法的と、抜け穴を探して租税回避行為を画策するイタチごっこが起こることは、想像しやすいと思います。
さて、本旨に戻りますが、新たに設立された法人には、通常、第1期と第2期には前々期となる基準期間が存在しないことから、基準期間における課税売上高もなく、自動的に免税事業者となることを利用して消費税の課税を逃れる方法があります。
これに制限をかけるため、平成9年に期首資本金の額等が1,000万円以上の法人は、課税事業者とする「新設法人の納税義務の免除の特例」の規定が設けられました。
しかし、平成17年に会社法が改正されたことにより、最低資本金制度がなくなり、資本金の額を1,000万円未満で設立する方法が多用されました。
そこで、一定の制限をかけるため、資本金の平成25年の改正で、課税売上高が5億円を超えるような大きな親会社が設立する子会社については、期首資本金の額が1,000万円未満であっても課税事業者とする「特定新規設立法人の納税義務の免除の特例」の規定が設けられました。
いろいろ抜け道を考える人が多く、うまく機能しているとは言えない部分もあるのですが、様々な租税回避手法を制限するため、条文は複雑になっています。
※下記の参照条文については、分かりやすさを優先し、条文番号の内容への置き換え、一部省略等を行っています。
新設法人の納税義務の免除の特例
第12条の二に、次の通り規定されています。
第十二条の二 その事業年度の基準期間がない法人(社会福祉法人その他の専ら国内取引の非課税に掲げる資産の譲渡等を行うことを目的として設立された法人で政令で定めるものを除く。)のうち、当該事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額が千万円以上である法人(以下「新設法人」という。)については、当該新設法人の基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間(課税事業者の選択の規定による届出書の提出により、又は前年等の課税売上高による納税義務の免除の特例、新設合併、分割等の規定により消費税を納める義務が免除されないこととなる課税期間を除く。)における課税資産の譲渡等については、小規模事業者に係る納税義務の免除の規定は、適用しない。
2 前項の新設法人が、その基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間(簡易課税の規定の適用を受ける課税期間を除く。)中に調整対象固定資産の仕入れ等を行つた場合には、当該新設法人の当該調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間から当該課税期間の初日以後三年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間(その基準期間における課税売上高が千万円を超える課税期間及び課税事業者の選択の規定による届出書の提出により、又は前年等の課税売上高による納税義務の免除の特例、新設合併、分割等の規定により消費税を納める義務が免除されないこととなる課税期間を除く。)における課税資産の譲渡等については、小規模事業者に係る納税義務の免除の規定は、適用しない。
3 前項に規定する調整対象固定資産の仕入れ等が特例申告書の提出に係る課税貨物の保税地域からの引取りである場合その他の場合における同項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。
まずは、他の規定が絡む、カッコ書き部分を除いて読むと内容は、次の通りです。
・基準期間がない法人のうち、期首資本金の額又は出資の金額が1,000万円以上である法人(新設法人)は、納税義務は免除されない。
・新設法人が調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合には、その仕入れ等を行った課税期間から、少なくとも3年間は、納税義務は免除されない。
調整対象固定資産の定義などについては、別の規定で詳細を説明したいと考えていますので、ここでは割愛します。
過去にこの調整対象固定資産に絡む租税回避が横行したため、平成22年の改正で盛り込まれた規定です。
特定新規設立法人の納税義務の免除の特例
第12条の三に、次の通り規定されています。
第十二条の三 その事業年度の基準期間がない法人(新設法人及び社会福祉法人その他の専ら国内取引の非課税に掲げる資産の譲渡等を行うことを目的として設立された法人で政令で定めるものを除く。以下「新規設立法人」という。)のうち、その基準期間がない事業年度開始の日(以下「新設開始日」という。)において特定要件(他の者により新規設立法人の発行済株式又は出資(その新規設立法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式又は出資が直接又は間接に保有される場合その他の他の者により新規設立法人が支配される場合として政令で定める場合であることをいう。)に該当し、かつ、新規設立法人が特定要件に該当する旨の判定の基礎となつた他の者及び当該他の者と政令で定める特殊な関係にある法人のうちいずれかの者の当該新規設立法人の当該新設開始日の属する事業年度の基準期間に相当する期間における課税売上高として政令で定めるところにより計算した金額(国又は地方公共団体が一般会計に係る業務として行う事業における課税資産の譲渡等の対価の額を除く。)が五億円を超えるもの(以下「特定新規設立法人」という。)については、当該特定新規設立法人の基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間(課税事業者の選択の規定による届出書の提出により、又は前年等の課税売上高による納税義務の免除の特例、新設合併、分割等の特例、若しくは新設法人が調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合の規定により消費税を納める義務が免除されないこととなる課税期間を除く。)における課税資産の譲渡等については、小規模事業者に係る納税義務の免除の規定は、適用しない。
2 新規設立法人がその新設開始日において特定要件に該当し、かつ、前項に規定する他の者と同項に規定する政令で定める特殊な関係にある法人であつたもので、当該新規設立法人の設立の日前一年以内又は当該新設開始日前一年以内に解散したもののうち、その解散した日において当該特殊な関係にある法人に該当していたもの(当該新設開始日においてなお当該特殊な関係にある法人であるものを除く。以下「解散法人」という。)がある場合には、当該解散法人は当該特殊な関係にある法人とみなして、当該新規設立法人につき、前項の規定を適用する。
3 前条第二項及び第三項の規定は、特定新規設立法人がその基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間(簡易課税の規定の適用を受ける課税期間を除く。)中に調整対象固定資産の仕入れ等を行つた場合について準用する。この場合において、前条第二項中「前項の新設法人」とあるのは「次条第一項の特定新規設立法人」と、「当該新設法人」とあるのは「当該特定新規設立法人」と、「若しくは前項」とあるのは「、この項若しくは次条第一項」と読み替えるものとする。
4 第一項に規定する他の者は、特定要件に該当する新規設立法人から同項に規定する金額が五億円を超えるかどうかの判定に関し必要な事項について情報の提供を求められた場合には、これに応じなければならない。
5 前三項に定めるもののほか、第一項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。
引用も多く、とても複雑な条文になっていますね。
この辺りになると日本語というよりも消費税語と言ってもいいぐらいかもしれません。
この規定は、内容が複雑多岐に渡るため、受験生は、受験予備校で詳細解説を受けられるのが良いと思います。
一応、内容をまとめると次の通りです。
・基準期間がない法人(新設法人等を除く、新規設立法人)が、特定要件を満たし、かつ、特定要件の判定の基礎となった他の者等の基準期間に相当する期間における課税売上高が5億円を超えるときは、納税義務は免除されない。
・解散法人がある場合には、その新規設立法人は、納税義務は免除されない。
・特定新規設立法人が調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合には、その仕入れ等を行った課税期間から、少なくとも3年間は、納税義務は免除されない。
租税回避を防止するため、パッチを当てるようにつぎはぎして規定を付け加えた結果、このような形になってしまっています。
まとめ
今日の解説で、「納税義務」関連のまとめが一通り終わりました。
「課税の対象」「納税義務」と解説が終わり、細かいものを除けば、これで消費税法の大方3分の1ぐらいです。
明日からは、マンション管理に関する記事を挟みつつ、納税額計算の仕組みがわかる「仕入税額控除」の各規定について、解説を行っていきたいと思います。
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