中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例(簡易課税制度)
本日は「控除の特例」に戻って、「中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例」について、まとめてみたいと思います。
「簡易課税制度」と銘打たれていますが、計算は全く簡易ではありません。
そのため、簡易課税制度で必要となる事業種別の判定は、原則法である一般課税(原則課税)からかなり勝手が変わるため、試験出題傾向を検討した上で、捨て論点としてしまうことも多かったと思われます。
しかし、ここ2年連続して、本試験の計算問題で、「一般課税」と「簡易課税」の双方を2問形式で問われたことから、今後、捨て論点としてしまうことは難しいと考えます。
※下記の参照条文については、分かりやすさを優先し、条文番号の内容への置き換え、一部省略等を行っています。
届出書を提出した場合
第37条1項に次の通り規定されています。
事業者(消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、その納税地を所轄する税務署長にその基準期間における課税売上高(基準期間における課税売上高をいう。)が五千万円以下である課税期間(分割等に係る新設分割親法人又は新設分割子法人の政令で定める課税期間(以下「分割等に係る課税期間」という。)を除く。)についてこの項の規定の適用を受ける旨を記載した届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間(当該届出書を提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間である場合には、当該課税期間)以後の課税期間(その基準期間における課税売上高が五千万円を超える課税期間及び分割等に係る課税期間を除く。)については、「仕入れにかかる消費税額の控除」等の規定により課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額は、これらの規定にかかわらず、当該事業者の当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から当該課税期間における売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の百分の六十に相当する金額(卸売業その他の政令で定める事業を営む事業者にあつては、当該残額に、政令で定めるところにより当該事業の種類ごとに当該事業における課税資産の譲渡等に係る消費税額のうちに課税仕入れ等の税額の通常占める割合を勘案して政令で定める率を乗じて計算した金額)とする。この場合において、当該金額は、当該課税期間における仕入れに係る消費税額とみなす。
読み替えても長いですが、最後の括弧書き以外を飛ばして要約すると、次のように言えます。
基準期間における課税売上高が5,000万円以下である課税事業者が、この規定の適用を受ける旨の届出書を提出し場合には、提出した年度の翌年度から、原則の規定にかかわらず、「課税標準額に対する消費税額」から「売上げにかかる対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額」を控除した残額に「事業の種類ごとに政令で定める率」を乗じて計算した金額を「当年度の仕入れに係る消費税額」とみなす。
計算部分は、次の通りです。
(「課税標準額に対する消費税額」-「売上げにかかる対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額」)×「事業の種類ごとに政令で定める率(みなし仕入率)」=「仕入れに係る消費税額」
なお、第1項最後のかっこ書き部分にある「卸売業その他の政令で定める事業を営む事業者にあつては、当該残額に、政令で定めるところにより当該事業の種類ごとに当該事業における課税資産の譲渡等に係る消費税額のうちに課税仕入れ等の税額の通常占める割合を勘案して政令で定める率(=みなし仕入れ率)」については、施行令第57条「中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例」に具体的な計算方法を含め規定されていますが、ここでは割愛します。
届出書を提出することができない場合
第37条2項に次の通り規定されています。
前項の規定の適用を受けようとする事業者は、次の各号に掲げる場合に該当するときは、当該各号に定める期間は、「届出書を提出した場合」の規定による届出書を提出することができない。ただし、当該事業者が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間から「届出書を提出した場合」の規定の適用を受けようとする場合に当該届出書を提出するときは、この限りでない。
一 当該事業者が第九条第七項の規定の適用を受ける者である場合 同項に規定する調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から同日以後三年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間
二 当該事業者が第十二条の二第二項の新設法人である場合又は第十二条の三第三項の特定新規設立法人である場合において第十二条の二第二項(第十二条の三第三項において準用する場合を含む。以下この号において同じ。)に規定する場合に該当するとき 第十二条の二第二項に規定する調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から同日以後三年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間
第一号の規定では、調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合については、届出書の提出に制限が加えられています。
これは、簡易課税の適用を受けることにより、結果として、控除の調整規定である『課税売上割合が著しく変動した場合の調整対象固定資産に関する仕入れに係る消費税額の控除の調整』の規定を逃れることができてしまうためです。
調整対象固定資産の仕入れ等を行った上で、一般課税を適用した場合には、最低3年間は継続させ、『控除の調整』の適用を受けた後でなければ、簡易課税を選択できないようにしています。
第二号の規定では、『新たに設立された法人に係る納税義務の免除の特例』の規定により、課税事業者となった法人が、調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合には、第一号の規定と同様の趣旨から、簡易課税を選択できないようにしています。
なお留意点として、本文ただし書きにて、事業を開始した当初から簡易課税の適用を受けようとする場合は、「〜、この限りでない(=適用しない)。」とありますので、提出の制限対象からは除かれています。
これは、事業を開始した最初の年度から簡易課税を適用した場合には、一般課税を利用した調整対象固定資産の仕入れ等に絡んだ租税回避はできなくなるためです。
なお、「事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間」については、『課税事業者の選択』の規定でも「一定の課税期間」として登場しているのですが、実は、ここで登場するものとはその内容に違いがあります。
後日、その違いを比較して説明したいと思いますので、ここでは割愛します。
届出書の提出はなかったものとみなす場合
第37条3項に次の通り規定されています。
「届出書の提出することができない場合」に規定する事業者が当該各号に掲げる場合に該当することとなつた場合において、当該各号に規定する調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から当該各号に掲げる場合に該当することとなつた日までの間に第一項の規定による届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出しているときは、同項の規定の適用については、その届出書の提出は、なかつたものとみなす。
下図の通り、「届出書の提出をすることができない場合」に該当した事業者であっても、その該当した課税期間の調整対象固定資産の仕入れ等を行う前であれば、届出書を提出することができてしまいます。
そのため、この規定では、その届出書の提出はなかったものとみなして、結果として、簡易課税の適用はないものとしています。
適用を受けることをやめようとするとき
第37条4項に次の通り規定されています。
第一項の規定による届出書を提出した事業者は、同項の規定の適用を受けることをやめようとするとき又は事業を廃止したときは、その旨を記載した届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない。
『課税事業者の選択』の規定と同様に、適用を受けることをやめようとするとき、または事業を廃止したときは、その旨を記載した「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出しなければなりません。
2年継続適用
第37条5項に次の通り規定されています。
「適用を受けることをやめようとするとき」の場合において、第一項の規定による届出書を提出した事業者は、事業を廃止した場合を除き、同項に規定する翌課税期間の初日から二年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、同項の規定の適用を受けることをやめようとする旨の届出書を提出することができない。
これも『課税事業者の選択』の規定と同様に、最低2年間は継続して適用させるため、このような規定になっています。
届出の効力
第37条6項に次の通り規定されています。
「適用を受けることをやめようとするとき」の規定による届出書の提出があつたときは、その提出があつた日の属する課税期間の末日の翌日以後は、第一項の規定による届出は、その効力を失う。
「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」の効力は、その課税期間ではなく、翌課税期間から適用となります。
宥恕規定
第37条7項に次の通り規定されています。
やむを得ない事情があるため「届出書を提出した場合」又は「適用を受けることをやめようとするとき」の規定による届出書を「届出書を提出した場合」の規定の適用を受けようとし、又は受けることをやめようとする課税期間の初日の前日までに提出できなかつた場合における同項又は前項の規定の適用の特例については、政令で定める。
やむを得ない事情があり、各届出書を提出期限までに出せなかった場合には、施行令第57条の二「中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例の適用を受ける旨の届出等に関する特例」の規定に基づき、税務署長の承認を得ることにより、提出期限の前日に提出があったものとして取り扱われます。
なお、『課税事業者の選択』の規定説明時には省略しましたが、同様の規定があります。
まとめ
具体的な計算方法などは省略しましたが、実務上、決して簡易ではありません。
また、簡易課税と一般課税のどちらが有利になるかの判定は、2年継続適用や調整対象固定資産の仕入れ等の状況も勘案せねばならず、一般課税の適用分類と簡易課税の適用分類の双方を正確に記録した帳簿資料(入力担当者が消費税法をしっかりと理解していないと作れない)があったとしても、設備投資などの将来予測も必要となることから、しっかりとした担当者が事業計画も含め、代表者と密に連携していて初めて可能となります。
(ここまでカバーできる担当者であれば、消費税法の有利判定に限らず、様々な助言や提言が可能になります)
試験としては、理論問題は、要件判定が複雑化していることから、けっこう長文な解答を要求され、計算問題でも、一般課税とは別枠で理解する必要があり、面倒な制度としか捉えられません。
しかし、しっかり理解し、使いこなせれば、出題可能性も低くないことから、合格圏へとかなり近づくことができる論点とも言えると思います。
届出書の提出期限や種類など、計算以外にも作問しやすい要素があり、捨てることはできない論点だと思いますので、基礎部分からしっかりと理解し、使いこなすことができるよう取り組みましょう!