A Written Oath

湘南藤沢の開業税理士・マンション管理士・社会人大学生のブログです

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消費税税理士試験

仕入れに係る消費税額の控除:課税売上高が5億円を超える場合等

昨日は、「消費税について(仕入れに係る消費税額の控除:全額控除)」を解説しましたが、今日はその続きとして、「課税売上高が5億円を超える場合等」について、まとめてみたいと思います。

 

「原則課税(一般課税)」が適用される場合で、かつ、この「課税売上高が5億円を超える場合等」の規定が適用されない場合には、昨日の全額控除の規定が適用され、「仕入れに係る消費税額の合計額」の全額が控除されます。(そのため、「全額控除」と呼ばれています)

 

全額控除の規定は、課税売上割合(後ほど用語解説します)が95%以上であるような事業者については、「支払った消費税額」の計算に関して厳密に計算しなくても、「支払った消費税額」の全額を「仕入れに係る消費税額」に算入できるという規定と言えます。

もともと全額控除の規定は、本業の課税売上げに対して、若干の預金利息などが生じることにより、課税売上割合を計算して「控除対象仕入税額(消費税法上の用語で、「預かった消費税額から控除することができる一定の方法により計算した支払った消費税額の合計額」のことです)」を厳密に算定しなければならなくなってしまう事務的負担を考慮して設けられた規定です。(計算すると99.9・・%等、無視できる数字になりがちです)

 

この「課税売上高が5億円を超える場合等」の規定は、以前は課税売上割合(後ほど用語解説します)が95%未満である場合にのみ適用されていた規定でした。

しかし、課税売上高が5億円を超えるような大企業では、課税売上割合5%未満分であったとしても、相当大きな額の「支払った消費税額」が発生しています。

そのため、その差額は大企業にとっての益税(預けているだけのはずの消費税が事業者にとっての利益となること)になっていました。

この規定は、改正によって、平成24年4月1日以後に開始する課税期間について適用されています。

 

 

課税売上高が5億円を超える場合等

第30条2項に次の通り規定されています。

「仕入れに係る消費税額の控除」の規定が適用される場合において、「仕入れに係る消費税額の控除」の規定する課税期間における課税売上高が五億円を超えるとき、又は当該課税期間における課税売上割合が百分の九十五に満たないときは、仕入れに係る消費税額の控除」の規定により控除する課税仕入れに係る消費税額及び仕入れに係る消費税額の控除」に規定する保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額(以下「課税仕入れ等の税額」という。)の合計額は、仕入れに係る消費税額の控除」の規定にかかわらず、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める方法により計算した金額とする。

 

要約すると、次の通りです。

・「課税期間における課税売上高が5億円を超える場合」又は「課税売上割合が95%に満たない場合」には、「課税仕入れ等の税額の合計額」は、次の方法により計算した金額とする。

 

新たな用語の意義は次の通りです。なお、「課税仕入れ等の税額」の意義については、別の機会で解説したいと思いますので、ここでは割愛します。

課税期間における課税売上高

第30条6項中に次の通り規定されています。

当該事業者が当該課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等の対価の額(「課税標準」に規定する対価の額をいう。)の合計額から当該課税期間における売上げに係る税抜対価の返還等の金額(当該課税期間中に行つた「売上げに係る対価の返還等をした場合の消費税額の控除」に規定する売上げに係る対価の返還等の金額から同項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額に六十三分の八十を乗じて算出した金額を控除した金額をいう。)の合計額を控除した残額(当該課税期間が一年に満たない場合には、当該残額を当該課税期間の月数(当該月数は、暦に従つて計算し、一月に満たない端数を生じたときは、これを一月とする。)で除し、これに十二を乗じて計算した金額)

 

言葉で正確に定義しようとして、長すぎますね(苦笑)

要約すると、『課税期間中の「課税資産の譲渡等の対価の額の合計額(税抜・総額)」から「売上げに係る対価の返還等の金額の合計額(税抜)」を引いた純額(税抜)を年換算した金額』と言えます。

 

課税売上割合

第30条6項中に次の通り規定されています。

当該事業者が当該課税期間中に国内において行つた資産の譲渡等の対価の額の合計額のうちに当該事業者が当該課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の占める割合として政令で定めるところにより計算した割合

 

これも文字だけだと読みにくいので、分数式にしてみると下図の通りです。違いは色付けした部分ですね。

また、補足として「資産の譲渡等」の図も参考に載せてみます。

少しはイメージできましたでしょうか?

 

 

個別対応方式

受験予備校での講義を受けていても気づきませんでしたが、消費税法の条文上は出てきません。

消費税法基本通達集で「個別対応方式による仕入税額控除」として出てくる用語で、第30条2項一号に規定する計算方法のことです。

 当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れ及び当該課税期間における前項に規定する保税地域からの引取りに係る課税貨物につき、課税資産の譲渡等にのみ要するもの、課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等(以下「その他の資産の譲渡等」という。)にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものにその区分が明らかにされている場合 イに掲げる金額にロに掲げる金額を加算する方法

 課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ及び課税貨物に係る課税仕入れ等の税額の合計額

 課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ及び課税貨物に係る課税仕入れ等の税額の合計額に課税売上割合を乗じて計算した金額

 

第2項の規定において、区分した各課税仕入れ等の税額を次の通り計算しています。

「課税仕入等の税額の合計額」=「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入等の税額の合計額」+(「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入等の税額の合計額」×「課税売上割合」)

 

これは、非課税売上げに対応する「支払った消費税額(課税仕入れ等の税額)」部分については、非課税売上げは購入者から消費税を預からないことにより、事業者が最終消費者となるため、その部分については計算方法によって、一般消費者と同じく支払った消費税を控除できない制度としているのです。

また、明確に区分できない共通して要する課税仕入れ等の税額については、売上高全体に占める課税売上高の割合である「課税売上割合」を乗じて、課税売上げに対応する部分を計算しています。

文章では分かりにくいですね。分かり易い図になっているかわかりませんが、図示すると次のようなイメージとなります。

この計算方法により、制度として、病院などは消費税の最終消費者として消費税を負担することとなり、売上げに消費税を転嫁できませんので、消費税負担分だけ経営が苦しくなっていると言われています。

 

なお、ここで登場する新たな用語の意義は次の通りです。

課税資産の譲渡等にのみ要するもの

「課税資産の譲渡等にのみ要するものの意義」として、基本通達11-2-12で次の通りフォローされています。

法30条第2項第1号《個別対応方式による仕入税額控除》に規定する課税資産の譲渡等にのみ要するもの(以下「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」という。)とは、課税資産の譲渡等を行うためにのみ必要な課税仕入れ等をいい、例えば、次に掲げるものの課税仕入れ等がこれに該当する。
 なお、当該課税仕入れ等を行った課税期間において当該課税仕入れ等に対応する課税資産の譲渡等があったかどうかは問わないことに留意する。

(1) そのまま他に譲渡される課税資産
(2) 課税資産の製造用にのみ消費し、又は使用される原材料、容器、包紙、機械及び装置、工具、器具、備品等
(3) 課税資産に係る倉庫料、運送費、広告宣伝費、支払手数料又は支払加工賃等

 

これは課税仕入れのうち、「課税資産の譲渡等を行うため」に必要として行った課税仕入れのことを意味し、「要する」という定義がミソで、その課税仕入れをした時点での用途でOKという意味です。

翌期以降で、その使用用途が変わったとしても、とりあえずは仕入れた段階で決まっていた用途で計算できるという意味で読めます。

この辺りは試験問題の読み取りで、けっこう引っ掛けられるポイントなので注意が必要です。

なお、「課税仕入れ等の用途区分の判定時期」として基本通達11-2-20に次の通りフォローされています。

個別対応方式により仕入れに係る消費税額を計算する場合において、課税仕入れ及び保税地域から引き取った課税貨物を課税資産の譲渡等にのみ要するもの、その他の資産の譲渡等にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに区分する場合の当該区分は、課税仕入れを行った日又は課税貨物を引き取った日の状況により行うこととなるのであるが、課税仕入れを行った日又は課税貨物を引き取った日において、当該区分が明らかにされていない場合で、その日の属する課税期間の末日までに、当該区分が明らかにされたときは、その明らかにされた区分によって法第30条第2項第1号《個別対応方式による仕入税額控除》の規定を適用することとして差し支えない。  

 

その他の資産の譲渡等にのみ要するもの

こちらは、「課税資産の譲渡等以外」の資産の譲渡等を、「その他」として定義されていますが、上図「資産の譲渡等」をご参照いただければ、「課税資産の譲渡等」以外の資産の譲渡等は、「非課税資産の譲渡等」しかありませんので、非課税資産の譲渡等という意味であることがわかります。

なお、「課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等の意義」として、基本通達11-2-15にて次の通りフォローされています。

法第30条第2項第1号《個別対応方式による仕入税額控除》に規定する課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するもの(以下「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」という。)とは、法第6条第1項《非課税》の規定により非課税となる資産の譲渡等(以下「非課税資産の譲渡等」という。)を行うためにのみ必要な課税仕入れ等をいい、例えば、販売用の土地の造成に係る課税仕入れ、賃貸用住宅の建築に係る課税仕入れがこれに該当する。

 

課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの

最後に、「共通して要するもの」と定義されていますが、「共通して要するもの」以外にも資産の譲渡等に該当しない「不課税取引」のために要するものついても、この区分に属するものとして取り扱うことが、基本通達11-2-16で次の通りフォローされています。

法第30条第2項第1号《個別対応方式による仕入税額控除》に規定する課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(以下「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」という。)とは、原則として課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ等をいうのであるが、例えば、株券の発行に当たって印刷業者へ支払う印刷費、証券会社へ支払う引受手数料等のように資産の譲渡等に該当しない取引に要する課税仕入れ等は、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに該当するものとして取り扱う。  

 

「不課税取引」は、「資産の譲渡等」以外の取引ですので、上記イメージ図の外側に位置しますが、一応これで世の中のすべての取引を網羅していることとなっています。

したがって、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」及び「その他の資産の譲渡等に要するもの」のいずれにも該当しないものは、全てこの「共通して要するもの」として考えればいいことがわかります。

 

 

一括比例配分方式

こちらは、「個別対応方式が適用できない場合」や「個別対応方式を適用しないことを選択した場合」に使用する計算方法で、第30条2項二号に規定する計算方法のことです。

 前号に掲げる場合以外の場合 当該課税期間における課税仕入れ等の税額の合計額に課税売上割合を乗じて計算する方法

 

この方式では、「課税仕入れ等の税額」の合計額に一括して「課税売上割合」を乗じています。

「課税仕入等の税額の合計額」=「課税仕入等の税額の合計額」×「課税売上割合」

 

なお、この「一括比例配分方式」と「個別対応方式」は、有利な方を選んで選択適用が可能ですが、一定の制限があります。

詳細は、次回以降の規定で解説しますので、ここでは割愛します。

 

まとめ

計算においてもっとも重要と言ってもいい規定なので、ポイント満載で、いろいろ端折っても長くなってしまいますね。

受験生でない方には、あまり有用なお話ではないかもしれませんが、「こんな仕組みがあるんだ」ぐらいのご理解を頂くことができればと思っています。

そして、この後も「課税事業者の選択」の解説でもでてきました「選択適用」可能な各規定が、消費税額計算を複雑にしていきます。