消費税について(前年等の課税売上高による納税義務の免除の特例)
昨日は、納税義務の免除の特例に関して、「課税事業者の選択」の特例規定を解説しましたが、今日は「前年等の課税売上高による納税義務の免除の特例」について、まとめてみたいと思います。
この規定は、民主党が与党であった時代に行われた改正で導入された特例規定です。
平成25年1月1日以後に開始する年又は事業年度から適用があり、基準期間における課税売上高が1,000万円以下である事業者であっても、前年等に一定の規模以上の課税売上高等があって担税力があると認められる事業者については、納税義務は免除しないという規定となっています。
なお、課税事業者の選択をしている場合は、当然に納税義務は免除されないため、規定内のカッコ書きにて適用パターンからは除かれています。
※下記の参照条文については、分かりやすさを優先し、条文番号の内容への置き換え、一部省略等を行っています。
前年又は前事業年度等における課税売上高による納税義務の免除の特例
第9条の二に次のように規定されています。
個人事業者のその年又は法人のその事業年度の基準期間における課税売上高が千万円以下である場合において、当該個人事業者又は法人(課税事業者の選択の規定による届出書の提出により消費税を納める義務が免除されないものを除く。)のうち、当該個人事業者のその年又は法人のその事業年度に係る特定期間における課税売上高が千万円を超えるときは、当該個人事業者のその年又は法人のその事業年度における課税資産の譲渡等については、小規模事業者に係る納税義務の免除の規定は、適用しない。
これも用語の意義を知らないと内容が通じない規定となっています。
ここで登場した新たな用語は次の通りです。
特定期間
第9条の二第4項及び第5項に次の通り規定されています。
政令で定める部分については、税理士試験対策として直前期までには計算で出題されても回答ができることが必要ですが、とりあえず、個人事業者については、「前年1月1日から6月30日までの期間」又は法人については「前事業年度開始の日以後6月の期間」との理解で問題ありません。
特定期間における課税売上高
第9条の二第2項に次の通り規定されています。
2 特定期間における課税売上高とは、当該特定期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等の対価の額の合計額から、第一号に掲げる金額から第二号に掲げる金額を控除した金額の合計額を控除した残額をいう。
一 特定期間中に行つた第三十八条第一項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額
二 特定期間中に行つた第三十八条第一項に規定する売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額に六十三分の八十を乗じて算出した金額
この規定は、年換算がないことを除けば、「基準期間における課税売上高」と同じ計算方法です。
以前の「小規模事業者に係る納税義務の免除」の規定中にもありました「課税資産の譲渡等の対価の額の合計額」(=「課税売上高(税抜)の総額」)から「売上げに係る対価の返還等の金額(税抜)」を引いて、「課税売上高(税抜)の純額」を算出しています。
特定期間中に支払った支払い明細書に記載すべき給与等の合計額
第9条の二第3項に次の通り規定されています。
前年等の課税売上高による納税義務の免除の特例の規定を適用する場合においては、特定期間における課税売上高の規定にかかわらず、その個人事業者又は法人が同項の特定期間中に支払つた所得税法第二百三十一条第一項 (給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書)に規定する支払明細書に記載すべき同項 の給与等の金額に相当するものとして財務省令で定めるものの合計額をもつて、特定期間における課税売上高とすることができる。
この規定を要約すると、特定期間における課税売上高が1,000万円超であっても、その期間中に支払った給与等の額が1,000万円以下であれば、この規定を適用しないこととするという内容になっています。
売上高をコントロールすることは難しいですが、給与等はそれなりにコントロール可能ですので、知っていれば、課税事業者となるかどうかを選択することができる規定となっており、改正によりこの規定を導入しつつも、抜け穴を作られた感じとなってしまっています。