消費税について(課税事業者の選択)
納税義務について、「納税義務者」、「小規模事業者に係る納税義務の免除」と投稿してきましたが、今日は納税義務の免除の特例として「課税事業者の選択」について、まとめてみたいと思います。
なお、消費税法の条文については条文番号の内容への置き換え、一部省略などを行っています。
「小規模事業者に係る納税義務の免除」の規定は、別段の定めがなければ有効な規定のため、今回以降で解説予定の免除の特例規定が適用されると、納税義務は免除されなくなります。
そして、今回の「課税事業者の選択」の規定は、特に自らの意思で届出書を提出することによって適用となる規定です。
消費税が免除されている状況であるにもかかわらず、わざわざ納税義務がある課税事業者を選択するのには、とうぜん理由があります。
それは、消費税には還付という制度があり、預かっている消費税よりも、支払った消費税が多い場合には、申告をすれば、差額分について税務署から還付(返金)を受けられる仕組みとなっているためです。
すると、法人設立第1期・第2期など、前々事業年度がない事業年度は、基準期間における課税売上高が0円であるため、納税義務は免除されるのですが、設立第1期・第2期は売上が少なく、初期投資として設備費用や研究開発費用などの多額の支出があり、収入より支出が多いことによって、還付が生じる場合があります。
また、海外への輸出がメインの企業では、輸出免税により売上で消費税を預からず、国内での支出にのみ消費税が課税されることから、経常的に還付が生じる場合があり、基準期間における課税売上高が1,000万円を超えない事業年度においては、この課税事業者の選択の規定の適用を受けていないと、還付を受けられないことになってしまうためです。
課税事業者の選択の届出
第9条4項に次の通り規定されています。
小規模事業者に係る納税義務の免除(以下、「本文」)の規定により消費税を納める義務が免除されることとなる事業者が、その基準期間における課税売上高が千万円以下である課税期間につき、本文の規定の適用を受けない旨を記載した届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出した場合には、当該提出をした事業者が当該提出をした日の属する課税期間の翌課税期間(当該提出をした日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間(以下、「一定の課税期間」)である場合には、当該課税期間)以後の課税期間(その基準期間における課税売上高が千万円を超える課税期間を除く。)中に国内において行う課税資産の譲渡等については、本文の規定は、適用しない。
長い規定なのでカッコ書き部分を飛ばして要約すると、次の通りです。
・小規模事業者に係る納税義務の免除の適用を受ける事業者が、その適用を受けない旨を記載した届出書を納税地の税務署長に提出した場合には、翌課税期間(翌年又は翌事業年度のこと)から、納税義務は免除されない。
原則は、提出した翌年(又は翌事業年度)からしか適用を受けることができません。
しかし、事業を開始した年(又は事業年度)からこの規定の適用を受けたい場合など、一定の場合(一定の課税期間)について、カッコ書き部分でフォローし、届出書の適用が受けることができように規定されています。
選択不適用の届出
次にこの規定の適用を受けることを止めようとする場合について、第9条5項に次の通り規定されており、届出書の提出が必要です。
なお、この届出の効力は、第9条8項に次のように規定されています。
選択不適用の届出の規定による届出書の提出があつたときは、その提出があつた日の属する課税期間の末日の翌日以後は、課税事業者の選択の規定による届出は、その効力を失う。
2年継続適用
提出制限に関して、第9条6項に次の通り規定されています。
選択不適用の届出の場合において、課税事業者の選択の規定による届出書を提出した事業者は、事業を廃止した場合を除き、翌課税期間の初日から二年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、選択不適用の届出書を提出することができない。
大変読み取りにくい条文です。
受験予備校で解説を受けていても読む気がしない内容なのですが、要約すると次の通りです。
・提出した年(又は事業年度)の翌年(又は翌事業年度)の初日以降でなければ、止めようとする旨の届出書を提出することができない。
こんな複雑な条文となっているのは、法人は事業年度を変更することが可能なためです。
そして、好き勝手に課税事業者と免税事業者を選択させないため、一度適用を申請すれば、この規定をおおむね2年間は継続して適用を受けるように縛りがかけられているのです。
この届出書に限らず、消費税関連の各種届出書・申請書提出については、すべてではありませんが、翌々年までの大きな支出入などをよく考えて、計画的に実施する必要がある場合が多いので、注意が必要です。
こういったことから、課税売上高が1,000万円を超えるような事業者の方については、専門的な判断のできる税理士の方と長期的な計画も含め緊密な連携ができることが望ましいと考えています。
調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合
第9条7項に次の通り規定されています。
選択不適用の届出の場合において、課税事業者の選択の規定による届出書を提出した事業者は、翌課税期間の初日から同日以後二年を経過する日までの間に開始した各課税期間(簡易課税の適用を受ける課税期間を除く。)中に国内において調整対象固定資産の課税仕入れ又は調整対象固定資産に該当する課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。)の保税地域からの引取り(以下、「調整対象固定資産の仕入れ等」という。)を行つた場合(一定の課税期間において選択不適用の届出書の提出前に当該調整対象固定資産の仕入れ等を行つた場合を含む。)には、前項の規定にかかわらず、事業を廃止した場合を除き、当該調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から三年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、選択不適用の届出書を提出することができない。この場合において、当該調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日から当該調整対象固定資産の仕入れ等の日までの間に選択不適用の届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出しているときは、その届出書の提出は、なかつたものとみなす。
この規定の詳細については、また別の規定解説の際に行いたいと思っていますので、今回は割愛します。
現時点での要約としては、「調整対象固定資産の仕入れ等」を行った場合限定で、課税事業者の選択が2年継続適用ではなく、最低3年間継続適用とすることが規定されています。
まとめ
消費税に限らず、税法には選択規定が多数あります。
事業環境が刻々と変化する中で、ベストな制度選択を常に行うことは大変難しく、状況の推移を見ながら、ある程度の幅でベターな選択肢を模索していく形になると思われます。
その中でも、選択に対する影響が大きく、また税理士に対する訴訟となりやすいのが、消費税と言われています。
ある程度、安定した中では選択の余地はあまりないかもしれません。
また、消費税の納税義務が生じはじめる辺りから、安定期に達するまでの成長期の間は、社長業も忙しくなるため、税務・会計業務は二の次とせざると得ないかもしれません。
ただ、このような制度があることから、資料だけ渡してあとは丸投げというのでは、知らず知らずにザルで水をすくうような状況になりえますので、ご留意いただければと考えます。