続)分譲マンション管理を俯瞰してみる
昨日(2016.1.6)は、分譲マンション管理組合の法律的な位置づけから、全体像を俯瞰するアプローチを試みましたが、今回は、その経済的な価値に着目して、全体像を俯瞰してみたいと思います。
会社株式に例えてはみたけれど
当然、分譲マンションは、「不動産」と呼ばれるだけあり、上場され、市場取引されるような株式のように、日々株価の目安が示され、売ろうと思えば、すぐに売却できる資産とは異なり、簡単には取引できません。
不動産価値の評価はシンプルにはいかない
一応、目安としては「公示地価」や「路線価」があり、私がめざしている税理士業界では「相続税評価額」などに、地方公共団体では「固定資産税評価額」に、金融機関では「融資の担保評価額」、不動産鑑定士の「不動産鑑定評価額」の算定に活用されていますが、実際の取引価格とは、少なくない差異があります。
この不動産の価値基準は、高すぎても、低すぎても、それぞれの業界事情ごとに困ります。
基本的には高ければ高いほど、国からは税金が高く取れるというメリット(我々からすれば基本的にはデメリット)が発生しますが、逆にそれだけの価値がないものを高く評価してしまうと、その不動産は実際にはそれだけのお金を生み出さないため、所有者にとって、「資産」ではなく、マイナスの財産である「維持コストがかかりすぎ、死を生み出す財産という意味での『死産』」となりかねません。
実際、築年古い戸建てでは、空き家問題が深刻化し、対策が打たれつつありますが、この対策が有効で、必ず解消できるという見解は聞いたことがありません。
実際の不動産の価格は、その売買時点での市況や、「事業者に売却するか」、「仲介業者を入れて、個人間で取引するか」によっても、大きく変動しますが、まずは近隣類似の事例が基準となっています。
一部、その不動産投資の分野では、その収益性(貸したらいくら儲かるか)を根拠とする例もありますが、基本的には「過去の近隣・類似の取引事例」などを基に、値付けされます。
「マンション管理」の価値とは
この他、マンションの価値は、所有者から見れば、「生活上の価値」「資産としての価値(賃貸した時に収益を生み出す力)」「取引上の価値(売買時の価格)」の3つの角度から見ることができます。
「マンションは管理を買え」などというキャッピコピーが業界内にいると昔から聞かれました。
いつ頃から、どのようにして成立したキャッチコピーなのかは分かりませんが、業界に入った20年前にはすでに業界に存在していました。
しかし、「マンションの管理」の価値は、「生活上の価値(住みよい環境の実現)」と「資産として価値(維持コスト上昇の抑制)」に集約され、「取引上の価値」には、ほぼ反映されていません。
その意味で、現状の「マンション管理」の価値は、維持コスト上昇の抑制という、主として「守り」の価値と言えると思っています。
今後の不動産への展望など
先日『【EXCEED-X 不動産投資家倶楽部】のセミナーへ行ってきました!』でも記事化しましたが、少子高齢化が進展する中、いよいよ基本的には右肩上がりだった不動産の価値に天井が見え始めました。
将来のことを予言して外れるとお恥ずかしい話になりますが、基本的に、これから不動産価格は二極化していくものと考えています。
少子高齢化によっても、人がいる限り、不動産が完全に不要になることはありません。
そして、ネットが普及しても人が集住することによるメリットが完全になくなることは当分考え難い状況です。
したがって、現状も進行している首都圏への人の流入が続くと考えています。
ただ、流入するよりも死亡者数の方が多くなる時点から首都圏であっても、人口は減っていきます。
コンパクトシティ構想が進められている
この状況は地方ではもっと顕著に起こると考えられていますし、一昔前には「限界集落」の問題など、実際に起こっています。
政令指定都市や県庁所在地など地方でも主要なエリアへ人が集まってくるものと考えられているのですが、現在これを加速させるため「コンパクトシティ」と呼ばれる都市政策構想があり、その形成支援を実現していくための法案がすでに可決・成立しています。
広い範囲のインフラや公共サービスなどを維持していくためにはコストがかかります。
しかし、少子高齢化の中、これを支える続けることは難しいのです。
現状は、この「コンパクトシティ」と呼ばれる集住を実現するため、「主要な都市施設をどこに集めるのか?」を検討していますが、これは結果として「どのエリアに人を集めていくのか?」に繋がります。逆に言えば、「どのエリアには人を住まなくさせていくのか?」を決定していくための調査・検討が進められていると言えます。
ホームインスペスクションの導入も進められている
この他、不動産の評価の方向性を変えていく模索が進められています。
今までは「建物」の価値があまり認められず、「土地」偏重の不動産取引評価がなされてきました。
「土地」は燃えたりなくなったりしませんので、確かにある種「建物」よりも「価値がある」と評価できるのですが、「建物」に評価がないとすれば、愛着以外の理由では、誰も大事にしませんよね?
「建物」に評価価値が認められないと、マンションではとても困ったことになります。
マンションは狭い土地の上に、法令で許す限り目一杯の建物を建てているのが普通ですから、建物価値の割合がとても大きいのです。
そうすると、古いマンションの特に建物部分では「取引上の価値がほとんどない」ことになります。
そのため、「建物」の価値を認める方向で、『ホームインスペスクション』の導入が進められていると考えています。
もちろん「ホームインスペスクション」は、中古住宅を流通させる上、購入後のトラブルを回避し、安心して取引ができるようにするための制度なのですが、これが第三者によって適正に行われれば、その評価基準がなく、今まで来てしまった「建物」に価値を認められる可能性が出てきます。
現状はその方向に法令の改正も進みつつありますが、これからは、その施策が有効に機能するかどうかが問われることとなります。
前段でも解説した通り、不動産の価値評価基準には、様々な関連する行政・業界などの思惑が大きく渦巻いており、日夜その綱引きが行われています。
ゆえに、シンプルにこうなるとは予断を許さない状況が続くと考えています。
ただ、これが実現すると「建物の状態」や「維持に管理の適切さ」には価値が認められる可能性が出てきます。
そうすれば、「資産としての価値(収益を生み出す面)」や「取引上の価値」にも反映されますので、資産としての「攻め」の部分においても価値が認められる時代が来るかもしれません。
まとめ
「俯瞰」するとタイトルを打ったのに、「経済的価値」という大きな側面について、言及していなかったと思い至り、今日の記事を思いつくままに書いてみました。
範囲が広く、すべてを適切に網羅できているとは言えないかもしれませんが、前回と今回の記事で、私の経験上から見た「マンション管理」の全体像をある程度お伝えできたのではないかと思っています。
私は「マンション管理」でコンクリート造を中心に住宅管理サイドから、この業界を見ていますが、実際には、この他、「戸建て」や「ビル」などもありますので、今後も不動産や税務に関する知見を広げ、見識を深めたいと考えています。