熊本地震でマンションが受けた被害(国総研委員会報告第3回)
前回(2016.7.10)に、国土技術総合研究所(国総研)が設置した「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」の第2回目の委員会の報告に関して記事にしました。
そして、議事概要などはまだアップされていませんが、今月12日に第3回の委員会が開催され、報告書の案文や参考資料などがアップされました。
委員会報告書(案)
以前と同じくこの委員会の調査対象は「建築物」ですので、マンションに絞った調査は行われていません。
比較的近い調査対象としては、役所や学校などの公共建築物、病院やビルなども含んでしまいますが、「鉄筋コンクリート造(RC造)等建築物」がその対象になると思われます。
このRC造等建築物の被害報告のまとめでは、前回の暫定報告時と変わらず、倒壊・崩壊が確認された建築物10棟はすべて旧耐震基準の建物でした。
倒壊・崩壊した建物はなくとも、新耐震基準の建築物においては、大破した建物があります。
特に注目すべきは大破した新耐震基準の建築物のうち、4棟はピロティ構造(いわゆる1階部分を吹き放しや駐車場などにしている構造物)の建物でした。
この点は、先日のコミュニティ研究会のミニ勉強会におけるレポートにおいても、報告されていました。
大破した原因分析もされていましたが、専門的な内容である上に、引き続き検討を要するとの結論となっているため、詳細は割愛します。
なお、総括としては、当然の帰結として、耐震化の一層の促進の必要性が挙げられています。
また、ピロティ構造の建築物に関しては、被害の抑制に向けた取り組みの必要性があるとされていることから、今後、ピロティ構造の建築物に対する耐震基準が強化される可能性があります。
免震構造における被害
こちらの被害内容としては、前回とは変わっていませんでした。
そして、被害報告のまとめとしては、一部にダンパー取付基部の損傷や外付け階段の損傷など、構造耐力上主要な部分に被害が見られたが、その被害の多くは免震材料の変形やエキスパンションジョイント周辺などクリアランス部分での損傷であり、免震構造は家具の転倒防止などで一定の効果を発揮したと報告されています。
総括としては、おおむね期待された性能を発揮したものの、一部の建築物に構造耐力上主要な部分に被害が見られたことから、被害事例や対策方法の周知レベルでの対応が必要とされています。
その他の気になったポイント
この報告書で最も気になったポイントは、建築物が倒壊・崩壊などを防止できたとしても、構造部材や非構造部材等の部分的な損傷により、庁舎、体育館などの避難所、病院、共同住宅等で地震後に継続的に使用できなかった事例です。
具体的には、益城町では、避難所として指定されていた建築物のうち使用が検討された14棟中6棟が、発災当初は損傷等により使用できなかったそうです。
この報告書の総括でも触れられていますが、建築基準法令は、建築物の構造等に関する最低の基準を定めたものであって、被災後に継続して使用できることまでを要求しているものではありません。
したがって、建築基準法の要求を満たしたとしても、被災後、継続使用できるレベルまでの性能ではないのです。
この他、気になっていた耐震スリットの効果に関しては、部分スリットがあった建築物調査報告はあったものの、大きくは取り上げられておらず、少し残念でした。
まとめ
木造でも新耐震基準の建築物は、被害ゼロではなかったようですが、倒壊・崩壊の防止に有効でした。
また、あれほど想定外の震災だったにもかかわらず、新耐震のRC造建築物では、倒壊・崩壊をした建物はなかったようです。
しかし、継続使用には課題がありました。
命を守れた次の課題は、被災生活への対応です。
これも立派な震災被害低減対策です。
今後は、マンション管理士として、「Business Continuity Plan(事業継続計画)」などとともに防災対策にも力を入れて学んでいきたいと考えています。